著者
大谷 進
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

アミノ酸のラセミ化反応を利用し、従来より正確な歯からの年齢推定法を確立するため各種実験を行った。1.pHによる影響:pH9の環境下で象牙質のラセミ化反応速度がもっとも速く、ついで水、pH4の順で、アルカリ性で速く、酸性で遅いことが認められました。しかしながら、実際のラセミ化は僅かで、年齢推定にはほとんど影響がみられず、死亡時の年齢が算出されるようでありました(環境温度15℃の場合)。2.固定液の影響:正確な年齢推定を行うには、鑑定資料の他に年齢既知の数本の同顎同名歯の対照歯が必要です。このため対照歯を95%エタノール、10%ホルマリンおよび10%中性ホルマリンの固定液に保存された場合について検索しました。その結果、象牙質アスパラギン酸のラセミ化反応速度は、10%中性ホルマリン>10%ホルマリン>95%エタノールの順に速く認められました。しかし、ラセミ化反応は歯を15℃(室温)の固定液に保存された場合、ほとんど促進されず、10年から20年程経過した歯でも抜去時と変わらない結果が得られました。3.ピンク歯について:実際の鑑定例では歯がピンク色に着染している現象が時々見られます。この場合、通常の方法では、年齢が低く算出されることがあります。しかし、資料を粉末化し何回か洗浄すると実際年齢に近い値が算出される知見が得られました。4.加熱の影響:ラセミ化反応は環境に左右され、とくに温度に強く影響されます。しかし、焼死体で加熱された歯でも非コラーゲン性蛋白質を用いると、ほぼ正確に年齢を求められることを明らかにしました。以上、歯からの年齢推定に関する数々の所見が得られ、ラセミ化法の信頼性をさらに高めることが出来たものと考えます。