著者
大貫 徹
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、ハーン作『耳なし芳一』とそれをアルトーが翻案した『哀れな楽師の驚異の冒険』との比較検討を行うことを通じて、アルトーが、その晩年に、ゴッホの中にもうひとりの「芳一」を見出す経緯を明らかにした。原話の『臥遊奇談』からハーンへと引き継がれてきた「亡霊に取り憑かれてしまった琵琶法師芳一の悲劇」という物語は、アルトーにおいて大きく変貌し、アルトーは芳一の盲目性さえ否定する。しかしだからこそ、アルトーは、その晩年、琵琶法師とか音楽家とはまったく無縁な、画家ゴッホの中にもうひとりの芳一を見出し、そのことによって、ハーン文学の精髄である「異界との接触」というテーマを継承することができた。