著者
大貫 礼史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.40, 2008 (Released:2008-11-14)

_I_ はじめに 日本列島,とりわけ関東平野の内陸部では,1990年代半ばから盛夏期に著しい高温が頻繁に観測されるようになった.その要因として,高温をもたらしやすい総観場の状況になることが多くなり,太平洋高気圧から吹き出す南西風が関東山地越えのフェーンとなることと,東京都心周辺の排熱によって暖められた海風が内陸部まで到達することの2つが考えられている.しかし,これらには矛盾点もあり,まだ正確に要因は特定されていない. 本研究は,とくに南高北低型気圧配置下の高温観測日に注目し,関東山地を吹き下ろす南西風と,東京湾から関東平野内陸部に侵入する海風を中心に解析して,夏季の関東平野内陸部で著しい高温が観測される要因を明らかにすることを目的とする. _II_ 使用資料・解析方法 AMeDAS日別値,時別値および10分値(気温,風),気象官署観測資料(湿度),高層気象観測資料(地上,850hPa面,500hPa面),地上天気図,大気汚染常時監視測定局データ(気温,風)を使用した. 対象地点は関東平野のAMeDAS観測点45地点,関東平野内陸部の南西方向に位置する気象官署3地点,大気汚染常時監視測定局6地点の計54地点である.対象期間は1996~2005年の7,8月,全620日である. 対象日選出にあたり,南高北低型気圧配置日の抽出,著しい高温観測日の抽出,当日に関東平野のAMeDAS対象地点で降水の観測がない日の抽出を行った.その結果選出された計7日を研究対象日とした. _III_ 結果 気温と風の分布,関東山地風下フェーンと関東平野内陸部の高温の関係,海風と関東平野内陸部の高温の関係についてそれぞれ解析をした結果,おもに以下のことが明らかになった. _丸1_気温と風の分布に注目すると,午前中には八王子~練馬~越谷にかけて高温域が形成されるが,午後にかけて高温域の中心は館林,熊谷などの内陸部となる. _丸2_関東山地風下のフェーンに注目すると,関東平野内陸部における著しい高温の発現にフェーンが影響していることもあるが,フェーン現象が生じているとはいえない高温日も多く,現時点ではフェーン現象は内陸部で高温が発現する際の絶対条件ではないと考えられる. _丸3_東京湾からの海風に注目すると,東京都心周辺の排熱は,海風によって内陸方向へ移動し,越谷や練馬付近に高温をもたらす一因となっている可能性が高い.一方で関東平野内陸部の館林,熊谷,伊勢崎などは,暖まった海風が越谷や練馬付近で上昇流が生じるため,東京都心周辺の排熱が直接的に高温化の原因になるのではなく,海風による冷涼な大気が内陸部まで届かなくなったことと,内陸部の都市化による土地被覆の変化や排熱の増加が高温化の一因になっていると考えられる.