- 著者
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守屋 以智雄
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.75, 2008 (Released:2008-11-14)
複成火山は溶岩原・楯状火山・成層火山・カルデラ火山に分けられるが,大量の玄武岩質溶岩流が繰り返し流出することで生じた溶岩原の地形発達について,アメリカ合衆国(USA)西南部,アラビア半島,アフリカ東部,アイスランドなどの溶岩原などを例に比較検討した結果をのべる.日本列島に溶岩原は存在しないが,世界的に見てその分布は広い.インド・デカン高原,USA北西部Columbia 川などの第三紀溶岩台地は浸食作用で溶岩原が台地化したものである.主としてアリゾナ・ニューメキシコ州を中心に,平均層厚100-500m, 面積50-100km平方,体積100-1000km3,寿命100-1000万年前の時空規模をもつ溶岩原が活動を継続している.この規模は日本列島の成層火山と比較して,いずれも10―数10倍に達し,1桁以上大きい.これは本地域と日本列島下のマグマ形成・上昇・噴出機構・過程・環境の違いを示唆する.同格の複成火山として一括分類することに問題がある.個々の溶岩原には多様性がある.Banderier, Geronimoなどの溶岩原は単成火山であるスコリア丘・小型楯状火山から流出した玄武岩質溶岩流が集合して広大な溶岩原を形成している.San Francisco, Taos, Raton-Clayton溶岩原は,Banderier, Geronimoなどの溶岩原に似た土台の中心に流紋岩質溶岩ドーム・安山岩質成層火山が形成されている.流紋岩質火砕流・溶岩ドームを噴出したVallesカルデラ火山の周囲に溶岩原の一部が散在し,土台に溶岩原が存在したことを示すが,さらに,堆積物から成層火山が存在したことも報告されている(Smith and Bailey, 1968).これらをまとめるとUSA西南部の溶岩原はBanderier, Geronimo型→San Francisco, Taos, Raton-Clayton型→Valles型へと変化しているように見える(守屋,1985).ただRaton-Clayton溶岩原は初期にデイサイト質溶岩ドームが噴出,その後断続的溶岩原成長と平行して流紋岩質溶岩ドーム,安山岩質成層火山が形成されたという発達史をもち,守屋 (1985)の溶岩原発達図式ですべてが説明できるとは限らないことを示す.
アラビア半島の溶岩原は約3000万年前に始まった割れ目拡大によって紅海が形成される際に,大量の玄武岩質溶岩流出が周辺に起こったが,その余燼は現在も残り,紅海沿岸・アデン湾沿岸に27個のアルカリ玄武岩質溶岩原・小型単成火山群が形成されている.シリア・ヨルダンにまたがるJabel ruse, Ha’il, Jawfなどの溶岩原はアルカリ玄武岩質スコリア丘・小型楯状火山とそれらから流出した溶岩流の集合体で,USA西南部の溶岩原はBanderier, Geronimo溶岩原とほぼ同じと考えられる.メッカ・メディナ市に近いE Harat 溶岩原北部には黒色アルカリ玄武岩質溶岩流の間に,白色のフォノライト質火砕流を噴出した径3kmのカルデラが存在する.より南のイエーメン・サナア市東方には白色フォノライト質溶岩ドーム,火砕流堆積物が広がる.エチオピアAfar三角帯に多く分布するErta Aleなどの溶岩原はBanderier, Geronimo型が多いが,成長とともに楯状火山が形成されることもある.数は少ないが成層火山をもつ溶岩原も存在する.Barberi and Carey (1977) は溶岩原→楯状火山→成層火山という発達図式を提案している.ケニア・タンザニア付近の地溝帯にはNgorongoroなどフォノライト・トラカイト質溶岩流・火砕流を噴出したカルデラがあり,多様性に富む.プレート拡大軸上にあるため,玄武岩質マグマがもっとも盛んに噴出する世界でも有数の地域で,割れ目の両側に溶岩流が広大な溶岩原を形成する.溶岩が流出する割れ目上には玄武岩質のスコリア丘・スパター丘列が30-40kmにわたってのびる.このような割れ目火山が多いアイスランドでは,個々の火山の境界を地形的に認定することが非常に難しい.Askya, Heklaなど特定割れ目からの繰り返し噴火によりマグマ溜まりが形成され,流紋岩質マグマを放出ようになると楯状火山として認定可能になる.溶岩原は次のような別種の単成火山・複成火山をもつ4つのタイプに細分されるー_丸1_玄武岩質小型単成火山のみ _丸2_小型単成火山+玄武岩質楯状火山 _丸3_小型単成火山+楯状火山+安山岩質成層火山 _丸4_小型単成火山+成層火山+流紋岩質カルデラ火山.これらは時系列的に発達した一連のグループと見なせると考えたい._丸2_-_丸4_の溶岩原は複数の複成火山から構成されることから,単成火山より2つ,複成火山より1つ格上の重複成火山と呼びたい.