著者
上参郷 祐康 大貫 紀子 野川 美穂子
出版者
東京芸術大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

名古屋の箏曲地歌演奏家団体のひとつである財団法人国風音楽会は、1893年に全国的組織の国風音楽講習所の名古屋支部として発足した。当初の会員は多くは江戸時代の盲人音楽家の組織である当道に所属していたので、国風音楽講習所では、多くの当道の制度や行事をとりいれた。これらのうちのあるものは、今日でもなお国風音楽会に伝えられ、また当道音楽のレパートリーの中でも、平曲や一部の胡弓曲のように、他には伝わらないものもある。本研究は、この国風音楽会の活動状況や活動内容を調査・記録し、その結果を、江戸時代以降の当道資料や音楽資料などと照らし合わせ、近世音楽史の重要な部分を担ってきた盲人音楽の実態を立体的に解明する事を目的としたものであり、その成果は主に以下の3点にまとめることができる。1.国風音楽会の年中行事について-年間約15種の行事を行うが、このうち室町時代に起源を持つ人康祭を含む重要な7種の行事については録音・撮影等による記録を作成し、調査検討を進めている。2.国風音楽会の教習制度について-盲人男子、盲人女子の場合、晴眼者の場合にわけて、教習上の曲の進度と弟子の側の資格取得(免状、許し等)との対応関係、盲人音楽家の資格の種類、およびその実態について戦前と戦後の変化にも留意しながら調査した。3.国風音楽会独自の伝承レパートリーについて-国風音楽会で伝承する、箏曲・地歌・胡弓曲・平曲について調査記録するとともに、国風音楽会所蔵の曲集の調査や名古屋で出版された曲集の収集も合わせて行った。