著者
松本 元成 大重 努 久綱 正勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1822, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】肩こりは医学的な病名ではなく症候名である。「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする,不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」とされるが,明確な定義はいまだない。平成19年の国民生活基礎調査によれば,肩こりは女性の訴える症状の第1位,男性では2位である。このように非常に多い症状であるにもかかわらず,肩こりに関して詳述した文献は決して多くない。我々理学療法士が肩こりを診る場合,姿勢に着目することが多いが肩こり者の姿勢に関する報告も散見される程度で,統一した見解は得られていない。臨床的には肩甲帯周囲のみならず,肋骨,骨盤なども含めた体幹下肢機能についても評価介入を行い,症状の改善が得られる印象を持っている。本研究の目的は,肩こり症状とアライメント,特に肩甲骨,肋骨,骨盤アライメントとの関連性について明らかにすることである。【方法】対象は当院外来患者で,アンケートにおいて肩こり症状が「ある」と答えた女性患者18名である。肩周囲に外傷の既往があるものは除外した。アンケートにおいて肩こり罹患側の左右を聴取した。罹患側の肩こり症状の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答して頂いた。アライメント測定は座位で実施した。座位姿勢は股関節と膝関節屈曲90°となるよう設定した。①体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角②胸骨体と肋骨弓のなす角③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角を,左右ともにゴニオメーターで測定した。①②③の角度を肩こり側と非肩こり側について,対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%とした。またPearsonの相関係数を用いて肩こり罹患側におけるVASと①~③のアライメントとの相関関係を検証した。【結果】①の体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角は,非肩こり側で12.50±6.13°,肩こり側で3.11±7.76°と肩こり側において有意に減少していた。②胸骨体と肋骨弓のなす角においては有意差を認めなかった。③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角は,非肩こり側で7.83±7.74°,肩こり側で3.17±8.59°と肩こり側において有意に減少していた。VASと①②③のアライメントについては有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,肩こり側は非肩こり側に比べて肩甲骨の上方回旋が減少し,骨盤の前傾が減少していることがわかった。座位姿勢において土台となる骨盤のアライメントがより上方の身体へと波及し,肩こりに何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。身体アライメントと肩こり症状の強さにはいずれも相関を認めず,症状の強さは今回調べた身体アライメントの異常だけでは説明がつかないことがわかった。本研究の限界として肩甲骨の上方回旋,下方回旋,骨盤では前後傾以外のアライメントには着目できていない。またあくまで同一被検者内での肩こり側,非肩こり側の比較である。今後,他のアライメントについてあるいは,肩こり者と非肩こり者間での検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩こりの理学療法において,肩甲帯周囲のみならず骨盤帯周囲に対しても評価,介入が必要となる場合があるかもしれない。また肩こり症状の強さについては,身体アライメントのみならず多角的な視点や介入が必要であることが示唆された。
著者
松本 元成 大重 努 久綱 正勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】肩こりは医学的な病名ではなく症候名である。「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする,不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」とされるが,明確な定義はいまだない。平成19年の国民生活基礎調査によれば,肩こりは女性の訴える症状の第1位,男性では2位である。このように非常に多い症状であるにもかかわらず,肩こりに関して詳述した文献は決して多くない。我々理学療法士が肩こりを診る場合,姿勢に着目することが多いが肩こり者の姿勢に関する報告も散見される程度で,統一した見解は得られていない。臨床的には肩甲帯周囲のみならず,肋骨,骨盤なども含めた体幹下肢機能についても評価介入を行い,症状の改善が得られる印象を持っている。本研究の目的は,肩こり症状とアライメント,特に肩甲骨,肋骨,骨盤アライメントとの関連性について明らかにすることである。【方法】対象は当院外来患者で,アンケートにおいて肩こり症状が「ある」と答えた女性患者18名である。肩周囲に外傷の既往があるものは除外した。アンケートにおいて肩こり罹患側の左右を聴取した。罹患側の肩こり症状の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答して頂いた。アライメント測定は座位で実施した。座位姿勢は股関節と膝関節屈曲90°となるよう設定した。①体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角②胸骨体と肋骨弓のなす角③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角を,左右ともにゴニオメーターで測定した。①②③の角度を肩こり側と非肩こり側について,対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%とした。またPearsonの相関係数を用いて肩こり罹患側におけるVASと①~③のアライメントとの相関関係を検証した。【結果】①の体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角は,非肩こり側で12.50±6.13°,肩こり側で3.11±7.76°と肩こり側において有意に減少していた。②胸骨体と肋骨弓のなす角においては有意差を認めなかった。③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角は,非肩こり側で7.83±7.74°,肩こり側で3.17±8.59°と肩こり側において有意に減少していた。VASと①②③のアライメントについては有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,肩こり側は非肩こり側に比べて肩甲骨の上方回旋が減少し,骨盤の前傾が減少していることがわかった。座位姿勢において土台となる骨盤のアライメントがより上方の身体へと波及し,肩こりに何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。身体アライメントと肩こり症状の強さにはいずれも相関を認めず,症状の強さは今回調べた身体アライメントの異常だけでは説明がつかないことがわかった。本研究の限界として肩甲骨の上方回旋,下方回旋,骨盤では前後傾以外のアライメントには着目できていない。またあくまで同一被検者内での肩こり側,非肩こり側の比較である。今後,他のアライメントについてあるいは,肩こり者と非肩こり者間での検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩こりの理学療法において,肩甲帯周囲のみならず骨盤帯周囲に対しても評価,介入が必要となる場合があるかもしれない。また肩こり症状の強さについては,身体アライメントのみならず多角的な視点や介入が必要であることが示唆された。