著者
大野 ゆかり
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.71-78, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
5
被引用文献数
1

市民参加型調査のタイプは様々あり、その市民参加型調査の特徴によって、研究者(市民参加型調査の立案者)にとっての利点と欠点が存在する。市民参加型調査の特徴として、参加者と調査方法の負担と調査対象に注目しながら、著者が行っている市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」の研究上の成功と著者の挫折、利点と欠点について、説明していきたい。花まるマルハナバチ国勢調査は、東北大学と山形大学の研究者が中心となって立ち上げた、市民参加型調査である。ウェブページやSNS、チラシなどで、マルハナバチの写真を撮影し、撮影日時や撮影場所の住所とともに写真をメールで送ってもらえるよう、市民に呼びかけている。そのため、この市民参加型調査は、参加者が不特定多数の市民で、調査方法の負担は比較的小?中程度と考えられる。また、調査対象はマルハナバチ類で、日本で生息している種は、外来種も含めて16種である。ただ、送られてくる写真は、ミツバチ類やクマバチ類、ハキリバチ類など、多くの一般的なハナバチ類が含まれている。本稿では、花まるマルハナバチ国勢調査を行ったことで気づいた、参加者が不特定多数であること、市民の調査方法の負担が比較的小さいことでの利点・欠点について、説明する。また、調査対象が特定の生物群(ハナバチ類)であることでの利点・欠点についても、説明する。著者は、この市民参加型調査が研究面で成功したのは、調査対象がハナバチ類であったのが大きいと考えている。また、花まるマルハナバチ国勢調査を続けていくうちに、欠点の克服方法がいくつか見つかったため、それら克服方法についても説明する。最後に、継続しやすい市民参加型調査の1つの形について、著者の意見を述べたい。
著者
大野 ゆかり 森井 悠太
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.65-70, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
20
被引用文献数
2

限られた研究費・労働力・調査時間の中で研究を行う研究者にとって、市民参加型調査は非常に魅力的な調査方法である。市民参加型調査には、広範囲で大量の生物観察データが得られる、得られたデータを使用して研究ができるといった、研究者にとってのたくさんのメリットがある。また、市民参加型調査は研究上の調査手法というだけではなく、研究のアウトリーチ活動になることや、市民の自然への関心を高めることができる、科学リテラシーの普及活動になるといった、研究者の社会貢献的な意味合いのメリットも、市民参加型調査から受け取ることができる。研究者(市民参加型調査の立案者)がこれらの市民参加型調査のメリットを十分に得て、目的を達成するためには、市民参加型調査の特徴を知り、適切なデザインをすることが必要である。海外における市民参加型調査の特徴を分析した研究によると、様々な市民参加型調査を主に、1.参加者が特定の少数で計画的に行うか/参加者が不特定多数で自由に行うか、2.参加者に求める調査の負担が大きいか/小さいか、の2つの軸で類別できるとされている。本特集ではさらに、3.調査対象の生物種が特定の少数か/不特定多数か、というもう1つの軸を加え、様々なデザインの市民参加型調査について紹介したい。東北大学の大野ゆかりが、不特定多数の参加者によって、簡便な調査方法を用いた、特定の生物群(ハナバチ類)を調査対象とする市民参加型調査について情報を提供する。京都大学の森井悠太が、たった1人の市民が多大な労力を払うことによってもたらされた、外来種・マダラコウラナメクジの調査データを基にした研究について情報を提供する。さらに、バイオーム(株)の藤木庄五郎博士は、不特定多数の参加者が簡便な調査方法で不特定多数の生物種を対象とする市民参加型調査について情報を提供する。最後に、東京大学の一方井祐子博士は、生態学に限らない様々な分野の市民参加型調査を俯瞰しつつ、市民科学(シチズンサイエンス)の可能性と課題を議論する。本特集では、研究者(市民参加型調査の立案者)が市民参加型調査のメリットを十分に得て、目的を達成するための適切なデザインの提示を目指す。本特集が読者らにとって、市民参加型調査の理想や、市民科学のもたらす未来について議論するきっかけとなることを期待したい。