著者
大野木 和敏
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.497-516, 1998-08-25
被引用文献数
1

気象庁の数値予報システムにおいて、誤った観測データを除去するための新しいデータ品質管理方法を開発した。品質管理は、すべての観測値に対し、予報から与えられる第一推定値との差を評価することによって行われる。この差は統計調査の結果を基に観測要素・観測レベルごとに設定されたしきい値と比較され、許容範囲から外れた観測データは誤データとして除去される。従来の静的品質管理では、気象状態に関係なくしきい値は一定であった。新しい方法である動的品質管理では、観測点付近の第一推定値の場の状態を考慮する。しきい値は局所的な水平勾配と3時間の時間変化によって線形的に変化させる。統計的な調査によって、観測値と第一推定値の差は、第一推定値の局所的な水平勾配と時間変化に近似的に比例することがわかった。動的品質管理はこの関係を品質管理に適用したものである。静的品質管理では、誤ったデータが静穏な領域で誤って採用され、正しいデータが変動の激しい領域で誤って除去される誤判定がしばしば見られたが、動的品質管理によってこれが全領域で大幅に減少した。動的品質管理を適用した予報実験では、熱帯と南半球で予報スコア及び予報値とレーウインゾンデ観測との整合が向上した。予報期間にして1日分以上に相当するアノマリー相関の改善がみられる場合や、レーウインゾンデ観測との整合が平方根平均二乗誤差(RMSE)で10%以上改善される場合もある。北半球では予報結果は変わらなかった。動的品質管理は1997年3月17日に気象庁の数値予報システムに組み込まれ、その後現業全球予報の成績は大幅に向上している。