著者
宇佐美 雄司 大須賀 伸二
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

唾液によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の可能性を検証するために、HIV感染者から全唾液を採取しnested-PCR法を用いてHIVプロウイルスDNAの検出を試みた。さらに、感染性については唾液中の血液の混入を調べる必要があるが、ヘモグロビン量を測定することにより評価した。その結果、CD4陽性リンパ球数が500/μ1以上の患者の唾液中からはHIVプロウイルスDNAは検出されなかったが、ほぼAIDS関連症候群にあたるCD4陽性リンパ球数500/μ1未満の200/μ1以上の患者の唾液の57%からHIVプロウイルスDNAが検出された。AIDS状態に相当するCD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者から採取した唾液からは検出されなかった。HIVプロウイルスDNAが検出された全ての唾液検体からは血液の混入が認められた。すなわち、唾液自体による感染の危険性は否定的であるが、微量ながら血液が混入している唾液によってはHIV感染が成立する可能性があると考えられた。さらに今後はより厳密な検討のために唾液中のHIV-RNAの測定も必要と思われた。次に唾液によるHIV感染の危険性を修飾すると考えられる口腔内の局所免疫能を検討するために、唾液中の分泌型免疫グロブリンAを定量した。その結果、CD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者において唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度が低下する傾向が示された。これはHIV関連口腔症状の発現にも関与していると推測された。