著者
大風 薫
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.54-83, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
16

すべての年代において生きがいが生き方を見直す重要な視点になっている。このことを踏まえ、本稿では、35歳から64歳の現役世代男女がどの程度、どのような生きがいを持っているのか、生きがいと階層・ライフイベント・資産形成の関わり、そして、生きがいとメンタルヘルスの関係について検討した。得られた結果は以下の通りである。 1)現役世代は65歳以上の高年世代に比べて生きがいを持たない割合が高く、生きがいの対象数も少ない。生きがいの主な対象は、男性では「仕事」、女性では「家族・家庭」「ひとり気まま」である。 2)生きがいの保有や生きがいの対象には階層による格差がある。高学歴や高収入層は「仕事」や「家族」が生きがいの対象だが、階層が低い場合は、「友人」や「SNSによる交流」、「ひとりで気ままに過ごすこと」を生きがいとしている。 3)自発的でない理由による退職経験は生きがいを損なう一方、自己の成長やキャリアアップにつながる自発的な理由による退職経験は生きがいをもたらす。 4)男性は、家族や自己の成長になるライフイベントを経験している場合、生きがいを持ちやすい。他方、女性は、自分の生活を大きく調整せざるを得ないイベントを経験している場合、生きがいを持ちにくくなる。 5)預貯金・保険商品・NISAによる資産形成は生きがいを高めることと関連しており、資産形成行動はメンタルヘルスの良好さと関係している。 本稿では、人生の充実期とみなされ、生きがい研究やライフコース研究において従来あまり注目されてこなかった中年を含む現役世代に注目し、生きがいの規定要因や生きがいとメンタルヘルスとの関係を明らかにしてきた。現在の現役世代の場合、高年世代になっても現在の高年世代ほどの生きがいを得ることは難しいおそれがあるものの、資産形成行動が生きがいやメンタルヘルスの向上につながる可能性はある。生きがいとの関わりの中で資産形成を位置づける適切なコミュニケーションが求められる。