著者
高山 憲之
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.3-31, 2015-12-18 (Released:2017-04-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

世代間問題研究プロジェクトが2011 年に実施した「くらしと仕事に関するインターネット調査」を利用して第3号被保険者の実態を調べた結果、次のような新たな知見が得られた。すなわち (1)女性の場合、年金加入期間の年金被保険者カテゴリー別構成をみると、若い世代では総じて第2号期間が最も長い。この第2号期間の相対比率は年配の世代ほど低い。 (2)年金加入期間のすべてが第3号ないし第1号であり、第2号期間がゼロであるという女性のサンプル割合は総じて5%程度であり、きわめて少ない。 (3)女性の場合、第3号被保険者割合は25 歳以降40 歳前後まで加齢に伴って上昇していき、その後、少しずつ低下する(加齢効果)。さらに同一年齢でみた第3号被保険者割合は総じて若い世代ほど低い(世代効果)。 (4)女性の場合、20 歳台前半時には第2号被保険者が最も多い。ただ、世代が若くなるにつれて20 歳台前半時の第2号被保険者割合は低くなってきている。25 歳以降40 歳直前まで第2号被保険者割合は加齢に伴い総じて徐々に低下していく。 (5)結婚または出産直後からしばらくの間は第3号となる女性が依然として少なくないものの、34 歳以前においては第2号が女性の多数派を占めている。女性のライフコースは多様化しており、第3号期間は全体として若い世代ほど短くなっている。 (6)男性の第3号被保険者は1999 年度からの16 年間に4 万人から11 万人強に増加した。その人数が最も多いのは50~59 歳層である。 (7)男性第3号は本人が倒産等で失職、あるいは健康を害して離職、その後も離転職を繰り返し、現在、パートやフリーランス・嘱託等で就業中または失業者として求職中 の人が多い。病気等で無職の人もいる。その世帯年収は全体として必ずしも高くない。 (8)税制上、103 万円の壁は今や存在しない。ただし、配偶者手当(配偶者控除ではない)の支給基準が実質的に103 万円の壁を形成している。さらに、通勤手当を考慮すると130 万円の壁も実在している可能性が高い。 (9)非正規で働く女性第3号は週20 時間勤務の人が突出して多い。 (10) 夫の年収が高いほど、妻の第3号被保険者割合も総じて高い(夫の年収600万円まで)。 (11)夫の年収は共働き世帯よりも専業主婦世帯の方が全体として多い。他方、世帯ベースの年収に関するかぎり、専業主婦世帯が共働き世帯よりも裕福であるとは必ずしも言えない。専業主婦世帯の中には世帯年収の低い世帯も、それなりに多く存在する。 (12)夫の年収が900万円以上になると、そのすべてを正確に把握していない妻が少なくない。
著者
大風 薫
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.54-83, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
16

すべての年代において生きがいが生き方を見直す重要な視点になっている。このことを踏まえ、本稿では、35歳から64歳の現役世代男女がどの程度、どのような生きがいを持っているのか、生きがいと階層・ライフイベント・資産形成の関わり、そして、生きがいとメンタルヘルスの関係について検討した。得られた結果は以下の通りである。 1)現役世代は65歳以上の高年世代に比べて生きがいを持たない割合が高く、生きがいの対象数も少ない。生きがいの主な対象は、男性では「仕事」、女性では「家族・家庭」「ひとり気まま」である。 2)生きがいの保有や生きがいの対象には階層による格差がある。高学歴や高収入層は「仕事」や「家族」が生きがいの対象だが、階層が低い場合は、「友人」や「SNSによる交流」、「ひとりで気ままに過ごすこと」を生きがいとしている。 3)自発的でない理由による退職経験は生きがいを損なう一方、自己の成長やキャリアアップにつながる自発的な理由による退職経験は生きがいをもたらす。 4)男性は、家族や自己の成長になるライフイベントを経験している場合、生きがいを持ちやすい。他方、女性は、自分の生活を大きく調整せざるを得ないイベントを経験している場合、生きがいを持ちにくくなる。 5)預貯金・保険商品・NISAによる資産形成は生きがいを高めることと関連しており、資産形成行動はメンタルヘルスの良好さと関係している。 本稿では、人生の充実期とみなされ、生きがい研究やライフコース研究において従来あまり注目されてこなかった中年を含む現役世代に注目し、生きがいの規定要因や生きがいとメンタルヘルスとの関係を明らかにしてきた。現在の現役世代の場合、高年世代になっても現在の高年世代ほどの生きがいを得ることは難しいおそれがあるものの、資産形成行動が生きがいやメンタルヘルスの向上につながる可能性はある。生きがいとの関わりの中で資産形成を位置づける適切なコミュニケーションが求められる。
著者
川村 憲章
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.14-16, 2016-09-09 (Released:2017-04-06)

金融広報中央委員会(事務局は日本銀行情報サービス局)は、わが国初の大規模調査として、「金融リテラシー調査」を実施した。「ミニ・ジャパン」とも言える、国の人口構成とほぼ同一の25,000 人の調査データに基づき、金融知識等の分野別・階層別分析、海外比較、行動経済学的分析など、多様な分析を行えるように設計している。本稿では、①高齢者の特性と、②長い老後への備えにフォーカスして説明する。なお、本稿における意見はすべて執筆者の個人的な見解である。
著者
平河 茉璃絵
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.29-53, 2020-01-28 (Released:2020-01-29)
参考文献数
16

本研究では、2009年に改正され2010年に施行された改正育児・介護休業法が、第一子出産後の母親の就業確率にどのような影響を与えたか分析した。分析の結果、①出産1年前に民間企業の正社員として働いていた女性のうち、2010年以降に出産した母親において出産1年後の就業確率が上昇していること、②「子どもが小さいうちは、特に3歳までは母親が子どものそばにいて、育児をすることが子どもにとって一番望ましい」という価値観をコントロールしても、2010年以降に出産した女性の出産1年後の就業確率が上昇していること、の2点がわかった。さらに、出産1年前に勤めていた企業の従業員規模別(100人以上、100人未満)に分析した結果、出産1年前に100人以上企業に勤めていた女性において、2010年以降に第一子を出産した女性で就業確率が大きく上昇したことを示した。2009年の育児・介護休業法の改正では、父母ともに育児休業を取得した場合に育児取得可能期間が1歳から1歳2か月まで延長できる「パパママ育休プラス」が制定され、短時間勤務制度・所定外労働の制限が義務化された。2010年以降に第一子が生まれた父親の育児休業取得率は非常に低い。よって、2010年以降における女性就業率上昇の要因の1つとして、短時間勤務制度や所定外労働の制限の義務化による子どもをもつ女性の働きやすさの向上が考えられる。
著者
丸山 桂
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.2-16, 2021-03-19 (Released:2021-03-19)
参考文献数
14

近年、老後の所得保障の自助努力として、私的年金制度、なかでも個人型確定拠出年金制度(iDeCo)が注目を集めている。しかし、その加入者に関する実証研究は、研究途上にある。本研究は、中年未婚者の個票データを用いて、iDeCo加入に関する実証分析と老後の低年金リスクが高い国民年金の保険料免除制度利用者との生活状況の比較を行った。主な分析結果は以下のとおりである。① 国民年金の保険料納付免除者は、仕事についていない者や非正規労働者の割合が高い。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、家計に深刻な影響があった者の割合は、国民年金保険料全額納付者や厚生年金加入者よりも、国民年金保険料滞納者、免除者に相対的に高かった。② iDeCoの加入状況を国民年金加入者と厚生年金加入者で比較すると、本来老後の年金額の上乗せ措置として加入が期待される国民年金加入者よりも厚生年金加入者に利用されている。iDeCo加入者は非加入者に比べ、収入や資産面でも余裕があり、NISA/つみたてNISAや個人年金制度も併用して、税制上の優遇措置を利用しながら、効率的に日常生活と老後の備えを行っている。③ 公的年金制度の繰り上げ制度/繰り下げ制度による給付額の減額・増額率を説明した上で希望する公的年金の支給開始年齢を尋ねた場合、国民年金の保険料免除者や滞納者は繰り上げ受給を望む者が相対的に多く、厚生年金加入者やiDeCo加入者には繰り下げ受給を選ぶ者が多い傾向が見られた。これは、現役時代にねんきん定期便で示される金額以上に、将来の高齢期の年金格差が拡大する可能性を示唆している。④ iDeCo加入について二項ロジスティック分析を行った結果、厚生年金加入者、金融資産額が高い者ほどiDeCoに加入する傾向にあり、個人年金やNISA/つみたてNISAを併用していることも明らかとなった。 今後とも、国民年金第1号被保険者に占める免除適用者数の増加が続き、経済的余裕のある者だけがiDeCoに加入し、税制上の優遇措置を二重三重に受け取る状況は老後の経済格差の拡大や所得再分配上の点から問題がある。公的年金の再分配機能とともに、本来加入すべき低年金者にいかにiDeCoの加入を促すか、金融リテラシーの形成支援も含めた検討を急がねばならない。
著者
坂本 純一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1, 2021-01-21 (Released:2021-01-23)
参考文献数
27
被引用文献数
1

カナダの公的年金制度は大きく2 つの部分から成り立っている。ひとつは1952 年に導入された老齢保障制度 (OAS) と呼ばれる非拠出制の定額年金である。もうひとつは被用者や年収が一定以上ある自営業者などに適用される報酬比例年金で、ケベック以外の事業所に適用されるカナダペンションプラン (CPP) とケベックの事業所に適用されるケベックペンションプラン (QPP) がある。これらは1966 年 に導入された。OAS にはCPP/QPP が導入された際に、所得保障補足年金 (GIS) が付加された。CPP とQPP は完全に通算可能で、制度改正については連携することが確認されている。 わが国の公的年金制度は、まず報酬比例年金が創設され、それから国民皆年金になったが、カナダの場合は国民皆年金が最初で、そのあと報酬比例年金が導入された。そして、その際、報酬比例年金給付が無い者、もしくは低い者にはGIS が支給されることとなり、このことによってカナダの高齢者の貧困率は低い。 1980 年代からカナダの経済は不振に陥り、市場原理主義的なマネタリストの影響のもとに、一時、 社会保障制度は拡大路線から縮小路線に切り替わり、所得の高い年金受給者のOAS 年金を削減する措置 (clawback) が出てきたが、2007-8 年のリーマンショックによりマネタリストの影響が薄らぐと、この金融経済危機による高齢者の引退後の所得の落ち込みを防ぐために2016 年にCPP/QPP の給付水準の改善を行った。 本稿では、OAS が創設されるまでのいきさつや、CPP/QPP 導入の経緯、ベビーブーマーの引退とともに人口高齢化の見通しが厳しくなるなかで導入されたCPP/QPP の1998 年の財政規律、2016 年の CPP/QPP の給付改善に触れながら、カナダの公的年金制度の歴史を概観する。
著者
神原 理
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.3-26, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
5

本稿では、サラリーマンのワークライフバランスに焦点をあて、その影響要因(因果関係)と構造、及び、そこから導き出される課題を明らかにした。因子分析の結果、ワークライフバランスに影響を及ぼす主要因は、「就労環境」や「積極的な生活姿勢」であり、特に「仕事への満足度」が重要な存在であることが明らかになった。クラスター分析からは、「Clu01.低バランス層(30-40 代、未婚率が高く、世帯収入と金融資産が少ない)」「Clu02. 中バランス層(Clu01.とClu03.の中間値にある層)」「Clu03.高バランス層(50-70 代、既婚率が高く、世帯収入と金融資産が多い)」という3 層構造の存在が浮き彫りとなった。 サラリーマンの間で「ワークライフバランスの階層化」が生じている。
著者
谷内 陽一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.137-173, 2022-02-25 (Released:2022-02-25)
参考文献数
47

英国では、年金ダッシュボード(pensions dashboard)という自身の公的年金および私的年金の状況を一元的に把握できるオンライン・プラットフォームの開発に官民挙げて取り組んでいる。英国では、Automatic EnrolmentおよびPension Freedomという私的年金に関する2つの大きな改正が行われた結果、老後のための資金準備および生活設計における個人の意思決定の重要性が高まっている。年金ダッシュボードは、年金および老後生活への意識と理解を高め、老後資金準備のための資産形成・運用ならびに引退後の生活設計(リタイアメント・プランニング)における個人の意思決定を支援することを目的としている。 年金ダッシュボードがもたらす利便性は万人が認めるところだが、その実現のためには、カバレッジ(適用する年金制度の範囲)、データ規格、セキュリティ・個人情報保護、開発主体・ガバナンス、開発・運営コストの負担などの課題を乗り越える必要がある。また、年金ダッシュボードによる老後所得の「見える化」を推進するためには、年金だけでなくあらゆる老後の収入・支出をカバーすること、拡張性・任意性の確保、老後資金準備を促すための機能の搭載、DX(Digital Transformation)あるいはICT (Information and Communication Technology)への対応、既存の年金情報提供ツールとの連携等に配慮した施策が求められる。 併せて、現在開発中の年金ダッシュボード・アプリケーションを用いて、老後生活設計で現在注目されている①資産の取崩し(デキュムレーション)および②WPPモデルという2つの手法の効果について可視化を試みた。特にWPPモデルでは、公的年金を増額するために手元資金をあえて取り崩すという合理的判断が求められるが、その有効性が可視化されることで今後更なる普及・活用が期待される。
著者
杉田 健
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.68-90, 2021-07-15 (Released:2021-07-15)
参考文献数
37

本稿はナイジェリアにおける年金制度の現状と課題を論じるものである。1981年から2014年の間に世界31か国が公的年金の全部または一部の民営化(DC化)を実施したが、18か国は民営化を全面的または一部やめ、また民営化を続けている国でもチリのように公営部分を拡充させた国がある。現在民営化を続けている国の中でもっとも人口の多い、アフリカのナイジェリアは、2004年に民営化が行われ、2014年の改正を経て現在に至っている。本稿は先行研究および公表資料を基に歴史的経緯・制度内容および課題を解説する。公務員年金の歴史は植民地時代にさかのぼるが、民間被用者の年金も含めて、2004年の改正前は給付と負担のバランス、年金記録が不十分で、積立金の横領、給付の遅延が発生していた。2004年の改正によりチリに倣った確定拠出型年金に移行し、2014年以降は若干の修正が行われている。ナイジェリアの年金の課題は、適用率の低さ、インフレに資産運用利回りが追いついていないこと、利息を嫌うイスラム教徒の加入者対応、不正防止があげられる。さらに、COVID-19による失業率の上昇により拠出中断が増え、将来の年金額への影響が懸念されている。