著者
天野 康弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_141-622_160, 2013-09-30 (Released:2014-12-09)
参考文献数
15

重過失は,規範的抽象的概念であることから,いかなる事実や要素を考慮すべきか一義的には明らかではない。そこで,平成以後の近時の裁判例の認定を類型的に分析し,重過失を導く事実・要素・視点について検討を加えるのが本稿の主たる目的である。裁判例の多くが重過失の意義についていかに解しているかも分析する。多くの裁判例は,重過失の意義について,著しい注意義務違反と解して,特別狭く解釈していない。そして,重過失の認定に際しては,行為それ自体の危険性が極めて高いこと,それが周知なこと,通常人であれば危険性を容易に予見できることといった各要素が基本となり,その他の要素を検討するという構造が基本的であるといえる。注意欠如の程度は甚だしいが,当該行為について何らかの事情や原因があり,重過失を否定する結論を採る場合,裁判例では,重過失の意義について制限的に狭く解釈する傾向があるように思える。