著者
太田 宏明
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.10, no.15, pp.35-56, 2003-05-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
109

畿内型石室は,地域的にも階層的にもきわめて広範囲にわたって採用された埋葬施設である。したがって,石室構築技術の伝達という側面から古墳時代後期の集団関係を考察するために重要な資料である。本稿は,畿内型石室の編年を行い,階層間・集団間において石室構築技術が伝播した過程について考察したものである。論を進めるために以下の4つの章を用意した。1章では,研究史の整理を行い問題め提起を行った。2章では,1章で行った問題提起に従い,すべての地域や階層が共有し,共通した変遷をしている部位に注目して分類・編年を行い,畿内型石室の変遷を一系列で理解できることを示した。この中で,1節では,畿内中枢部の大型石室を1から9群に分類し,各群が畿内型石室の変遷過程を示していることを証明した。同じく2節では,各群が畿内各地の群集墳にも認められることを示し,畿内型石室が極めて斉一的な変遷をしていることを述べた。3章では,畿内型石室が広い階層と地域にわたって斉一的に変遷する理由について考察した。考察の結果,畿内型石室は畿内中枢部で共有化された石室構築技術が畿内各地域の群集墳被葬者層に一元的に伝達されることによって斉一的な変遷が起きていることを述べた。最後に,畿内型石室構築技術の一元的な伝達を可能にしたのは,政権中枢をになう氏族と畿内地域の群集墳被葬者層との強固な階層間の紐帯であり,この紐帯が古墳時代後期の畿内地域における階層構造の特徴であると考えた。
著者
太田 宏明
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.13, no.22, pp.127-145, 2006-11-01 (Released:2009-02-16)
参考文献数
73

本稿は,物資や情報が分配される状況を分析することで,古墳時代後期における畿内政権と地域社会の関係を明らかにすることを目的としている。このために,古墳時代後期の畿内政権が管理と流通を掌握していた可能性が指摘されている金銅装馬具と畿内型石室構築技術を採り上げ,分析を行なった。資料を分析する際には,まず物資と情報の送り手である政権を構成した支配者層の墳墓を採り上げた。そして,支配者層の墳墓で採用された金銅装馬具や畿内型石室が一定の期間をおいて新しい意匠や構造に変化している点に注目した。意匠と構造の変化を把握することで,各時期において支配者層が標準的に採用している金銅装馬具と畿内型石室を抽出した。その後,物資や情報の受け手である地域首長層や群集墳被葬者層の墳墓から出土した金銅装馬具と埋葬施設の変化を整理して,支配者層でみられた状況と相互比較した。比較の結果,支配者層で標準的に採用されているものと同時期に,同意匠・同構造の金銅装馬具と埋葬施設を保有できた古墳の被葬者は,中央の物資や情報を円滑な流通のもと入手できる立場にいた人物と評価した。そして,このような古墳が,地理的・階層的にどのような勾配をもって分布しているのか検討を行なった。そして,このような古墳が密に分布する地域は,畿内政権と強く紐帯していた地域として評価した。