著者
太田,佳代子
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, 1995-04

全身性の筋力低下と, 頭蓋顔面領域の臨床症状として細長い顔貌, 開かれた口唇, 高口蓋などがみられる先天性非進行性ミオパチー患者の歯科矯正治療を行う機会を得たので, 顎顔面形態と咬合の特徴, および矯正治療に伴う変化と治療結果の安定性について検討した.1. 上下顎骨の前後的大きさは標準的であったが, 垂直的大きさ特に前下顔面高が過大であり, 下顎下縁平面角が大きかった.また, 頭蓋の幅径はほぼ標準的な大きさを呈していたが, 上顎歯槽基底部や下顎角部の幅径は小さい傾向にあった.2. 口蓋は深く(高口蓋), 前歯部は開咬を呈していた.これらは, 前下顔面高が過大で下顎下縁平面角が大きいことによる骨格性開咬と, 上下顎間距離の増大を補償するための上下顎歯槽部の大きな成長によるものと考えられた.3. 矯正治療中の変化として, vertical chin cap装着中は下顎下縁平面角の減少を伴い上下顎の成長は前方成長が優位で下方成長は抑制されていた.一方, chin cap中止後は上下顎の成長は下方成分が優位となり下顎下縁平面角の増加を伴っていた.4. 矯正治療後の咬合の悪化の原因は, 顎顔面の成長による上下顎間距離の増大と考えられた.これらの顎顔面形態と咬合の特徴および治療中, 治療後の変化は, 顔面筋の筋力低下が原因と考えられた.