著者
奈良林 繁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.473-484, 1970 (Released:2007-06-29)
参考文献数
42
被引用文献数
2

鼻炎及び副鼻腔炎に対する酵素療法は, 近来日本では盛んに行なわれる様になつて来たが, 酵素剤の皮下, 筋肉内注射, 又は経口投与後どの様な過程で血中, 粘膜内又はその他の臓器組織内に移行するかについては, 今尚明らかではない. 塩化リゾチームが鼻, 副鼻腔粘膜内, 及びその周囲組織に酵素活性を有したまま移行するかについて研究を行ない, その成績を得たのでここに報告する.材料及び方法1) 家兎の血中及び臓器内リゾチーム活性を塩化リゾチーム筋注又は経口投与後, 定時的に溶菌法にて測定した.2) 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与して, その組織内移行を螢光顕微鏡にて検鏡した.3) complete Freund's adjuvant と共に塩化リゾチームを家兎爪廓内に注射して得た抗塩化リゾチームを免疫組織学的に調べた.成績家兎の血中リゾチーム活性値の上昇は, 塩化リゾチームの筋注例では小量でも認められたが経口投与例では大量に与えた場合にのみ認められた. 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与した場合の組織内移行は明瞭に認められた. 注射又は経口的に塩化ジゾチームを投与したあとの人の鼻•副鼻腔粘膜内への塩化リゾチームの移行も免疫組織学的に確かめられた.考按以上の事実から投与された塩化リゾチームは血中, 鼻•副鼻腔粘膜及びその周囲組織内に溶菌性と抗原性を有したまま移行することが明らかとなつた. 組織に移行した塩化リゾチームの働らきが蛋白分解作用, 細胞賦活作用, そして外からの細菌侵襲に対する防禦作用に関するかどうかは今後検討しなければならない. 家兎の体内に卵白より抽出した塩化リゾチームに対する抗体が産生された事実から人体内にも抗塩化リゾチーム抗体の産出の可能性もあり得ると考える.