著者
奥山 雄大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近年の分類学において、DNA塩基配列に基づく効率的な種認識の方法論の進展は目覚ましいが、一方で特定の遺伝マーカーに基づく被子植物の種分類あるいは種同定の試みは乏しい。これはおそらく被子植物において一般に、形態に基づく分類システムの信頼性が高いこと、また種が遺伝的に単系統群にまとまらないことが多いと信じられていることに起因すると考えられる。しかしながら被子植物の種を簡便に、そして効率的に定義できるような遺伝マーカーを見つけ出すことは、ある植物の個体を十分な形態情報無しに、正確に既記載種に位置づけたり(DNAバーコーディング)、あるいはある系統群の中に隠蔽的な種の多様性を見出したりする(DNAタクソノミー)道を開くため、極めて価値が高い。そこで昨年度に引き続き、核リボゾーム遺伝子のETS及びITS領域を用いて、日本産チャルメルソウ類の種の多様性の再評価を行った。その結果、現在10種が知られているチャルメルソヴ節において少なくとも13の明確な種を認識することができた。これは、被子植物の隠蔽種探索にETSおよびITS領域が有用であることと同時に、極めて最近に種分化を遂げた種群への適用には限界があることも示唆している。また同所的に生育するチャルメルソウ節の種間がいかにして生殖隔離を達成し、種の独自性を保って共存しているかを調査した。200通りにも及ぶ網羅的な人工交配実験の結果、チャルメルソウ節においては種間交雑が稔性を著しく低下させ有害であるにも関わらず、他種花粉を排除する仕組みはあまり発達していないことを明らかにした。一方で野外調査の結果からは、同所的に生育する種間では開花フェノロジーの違い、あるいは送粉様式の違いによって生殖隔離が達成されていることが明らかとなった。