著者
福田 章人 澳 昂佑 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0026, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】国内において内側型変形性膝関節症(膝OA)患者は2400万人いると推測されている。膝OA患者は高齢化社会となり年々,増加している。膝OA患者では,疼痛から日常生活での活動量が減少することにより下肢筋力が低下し,更に膝OAが進行するという悪循環を招いてしまう。膝OA患者は歩行立脚期における膝内反モーメントの増加によって,膝関節内側コンパーメントの圧縮応力が増加し,痛みが誘発されることが明らかとなっている。さらに膝内反モーメントの増加によってlateral thrustが出現する(Schipplenin OD.1991)。これに対して外側広筋は1歩行周期において筋活動を増加することによって膝内反モーメントの増加やlateral thrustによる側方不安定性に寄与し,初期の膝OAにおいては膝内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。しかしながら,この外側広筋の筋活動が立脚期,遊脚期それぞれの周期別の活動については明らかにされていない。この筋活動の特徴を明らかにすることによって,膝関節に対する歩行周期別トレーニング方法の開発に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の外側広筋の筋活動の特徴を表面筋電図(EMG)を用いて明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人7名(25歳±4.5)と片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度の分類はKellgran-Lawrence分類(K/L分類)にIIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。歩行中の筋活動を計測するための電極を外側広筋,大腿二頭筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。歩行計測前,MMTの肢位にて3秒間のMVC(Maximum Voluntary Contraction)を測定した。歩行における筋活動の測定は音の合図に反応して,快適な歩行速度とした。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間正規化した。各筋の立脚期,遊脚期,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCに正規化した。統計処理はOA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数を用いて検証した。健常成人とOA患者のEMG振幅を歩行周期別にMann-Whitney U-testを用いて比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋のEMG振幅は有意な正の相関関係を示した。1歩行周期における外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した。また,立脚期,遊脚期それぞれの外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した(立脚期健常成人:21.79±3.63%,膝OA:72.09±19.06%,遊脚期健常成人:15.8±4.3%,膝OA:39.3±18.8%)。【考察】健常成人と比較して,外側広筋の筋活動が増加したことは先行研究と一致した。OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋の筋活動が相関したことは,側方不安定が増加するにつれて外側広筋の筋活動が増加したことを示す。さらに遊脚期,立脚期の周期別に外側広筋の筋活動が増加したことは立脚期における側方安定性に寄与する外側広筋の筋活動を遊脚期から,準備している予測的姿勢制御に関連している反応である可能性が示唆された。また,遊脚期において外側広筋,大腿二頭筋の筋活動が増加することにより正常な膝関節の関節運動を行えないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】変形性膝関節症患者の歩行時筋活動を解明することで歩行能力改善を目的とした歩行周期別トレーニングとして,遊脚期における筋活動に着目する必要性を示唆した。
著者
澳 昂佑 福田 章人 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0525, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約3000万人と推測され(平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省),膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こしてしまう。このため,膝OAの病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症(膝OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していることが報告されている(Schipplenin OD.1991)。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し,膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより,立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008),股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007)。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている(Rana S.2010)。これらの知見は膝OA患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を示唆している。しかしながら,膝OA患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象者は健常成人7名(25歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類(K/L分類)にて,IIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。対象者には筋電図の記録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson社製MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction:MVC)を等尺性収縮にて3秒間測定した。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間にて正規化した。各筋の1歩行周期における平均EMG振幅,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCにて正規化した。統計処理は健常成人とOA患者のEMG振幅をMann-Whitney U-testにて比較した。健常成人,OA患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅をPaired t-testにて比較した。OA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数にて検証した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者における外側広筋,中殿筋,内転筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅は有意差を認めなかった。他方,OA患者は外側広筋と比較して,内転筋のEMG振幅は有意な増加を認めた。OA患者のK/L分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05),内転筋(r=0.83,p>0.05)のEMG振幅は有意な正の相関関係を認めた。【考察】健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝OA患者においては外側広筋の筋活動より,内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝OA患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA患者の外側広筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を認めたことはOAの進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA患者の内転筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を示したことは膝OAの進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であり,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。