著者
澳 昂佑 木村 大輔 松木 明好 井上 純爾 服部 暁穂 中野 英樹 川原 勲
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.355-360, 2016 (Released:2016-04-29)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

〔目的〕立位姿勢制御時の感覚統合の異常が改善したことにより,歩行能力が改善した症例を経験したので報告する.〔対象〕対象は脳梗塞発症後1ヵ月経過した70歳代女性とした.本症例は,明らかな麻痺がないにもかかわらず,麻痺側立脚期が短縮し,転倒の危険性を有していた.〔方法〕立位時の各感覚貢献度を算出すると,本症例は感覚情報の重みづけに異常を有していることが明らかとなった.通常の理学療法に加え,セラピストはディジョックボード上で麻痺側片脚立位姿勢をとらせ,足底からの感覚入力を促すトレーニングを行った.介入期間は1ヵ月とした.〔結果〕立位時感覚貢献度指数,歩行左右対称性,10m歩行速度に改善が認められた.〔結語〕今回の再重みづけトレーニングが本症例の立位時の感覚統合に効果があった可能性が示唆された.
著者
森 拓也 澳 昂佑 川原 勲 木本 真史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1336, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】パーキンソン病患者の歩行に関して,すくみ足の出現は転倒リスクとなり,特に歩行開始時に問題となりやすい。歩行の開始の筋活動としては下腿三頭筋の筋放電の低下による下腿前傾より歩行は開始される。しかしパーキンソン病患者はヒラメ筋のH反射が亢進し,筋放電が増加するとの報告があり,これらがすくみ足や転倒につながると考えられる。Duvalらによるとパーキンソン病症例に対して,ストレッチによる伸張刺激が同名筋の筋放電量を減少させるとの報告があり,また足関節傾斜板を利用した下腿三頭筋の伸張の介入にて立位回転速度が改善したとの報告も見受けられる。よって,これらの知見の示す事は,パーキンソン病患者における下腿三頭筋の伸張運動効果が歩行能力改善において有効な反応を引き出す治療手段であると考えられる。しかし,パーキンソン病における足関節の傾斜刺激による重心動揺の変化や歩行の筋活動を示した報告は数少なく明らかになっていない点が多い。よって,本研究の目的は,足関節傾斜板を用いた足関節傾斜刺激が立位時重心動揺,歩行時筋活動に与える影響を明確にする事である。【方法】対象はパーキンソン病を7年羅病した症例である(性別:男性 年齢:85歳)。パーキンソン病期分類はHoehn-Yahrの病期分類StageIIIであった。(実験1)介入課題については,通常の理学療法に加え足関節矯正起立版10°の上に立ち,なるべく膝関節は完全伸展位にて身体を前方に倒す事を課題とした。介入時間としては1分間の介入を3回実施し足関節傾斜刺激が重心動揺に与える影響を介入前後で検証した。立位時重心動揺変化は重心動揺計(アニマ社製フォースプレートMG-100)にて測定した。測定としては介入前後共に1分間の測定を計3回行い,足部重心の位置を前後中心と左右中心の距離より算出し,3回の平均距離を算出した。また同時に表面筋電図(Noraxon社製myosystem 1400 以下EMGとする)にて立位における左右前脛骨筋,腓腹筋外側の計4筋の筋活動も測定した。筋電電極(Ambu社製ブルーセンサー)は標的筋に対して筋線維の長軸方向へ平行となるようにし,電極間距離を20mmとし貼付した。貼付方法はHermie.Jらの方法に従って貼付した。介入前後の立位における各筋における平均振幅を算出し,足関節の戦略の変化を測定した。(実験2)実験1同様の介入課題を行い,介入前後でEMGでの歩行解析を行った。計測における標的筋,電極貼付方法に関しても実験1同様である。歩行周期の解析については立脚期の指標としてフットセンサースイッチを使用し,またEMGとビデオカメラと同期させ目視による確認も行った。歩行解析として5歩行周期における立脚期の前脛骨筋,腓腹筋外側の平均振幅を算出し,介入前後での比較を行った。歩行動作能力の指標として,10メートル歩行テストの計測も行い,歩行速度と歩数の介入前後の変化を比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて,対象者の個人情報の保護に留意し,阪奈中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者に説明と同意を得た。【結果】(実験1)立位時重心動揺結果は【介入前】左右中心0±0.3cm,前後中心-1.9±1.2cm【介入後】左右中心0±0.04cm,前後中心0.7±0.3cmであった。立位時平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋8.0±3.7μV/左腓腹筋外側8.6±4.4μV/右前脛骨筋18.9±10μV/右腓腹筋外側24.4±15.2μV【介入後】左前脛骨筋24.9±11.4μV/左腓腹筋外側11.4±3.8μV/右前脛骨筋32.4±10.9μV/右腓腹筋外側26.7±7.2μVであった。(実験2)5歩行周期の各筋の立脚期平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋47μV/左腓腹筋外側48.9μV/右前脛骨筋86.2μV/右腓腹筋外側59.4μV【介入後】左前脛骨筋63.6μV/左腓腹筋外側42.6μV/右前脛骨筋118.4μV/右腓腹筋外側53.6μVであった。10M歩行テストの結果は【介入前】19.7±1.6秒(30.6±1.6歩)【介入後】16.6±1.5秒(26±0.6歩)であり,介入直後にてすくみ足の減少がみられた。【考察】今回の足底板傾斜板による下腿三頭筋の伸張運動にて,立位時重心動揺が前方に移動し,歩行能力が改善する傾向が見られた。これは足関節が傾斜する事で下腿三頭筋においてのストレッチング効果が生じ,H反射の減少等の影響によって,下腿三頭筋の筋放電量が減少した結果と考えられる。効果は即時的な変化であるが,歩行練習開始時の有用な一助となる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】パーキンソン病患者に対して,足関節傾斜板という簡便で短時間な介入方法は,歩行練習に効率よく介入できる可能性や自宅内での自主練習等に利用できる可能性が示唆された。
著者
福田 章人 澳 昂佑 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0026, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】国内において内側型変形性膝関節症(膝OA)患者は2400万人いると推測されている。膝OA患者は高齢化社会となり年々,増加している。膝OA患者では,疼痛から日常生活での活動量が減少することにより下肢筋力が低下し,更に膝OAが進行するという悪循環を招いてしまう。膝OA患者は歩行立脚期における膝内反モーメントの増加によって,膝関節内側コンパーメントの圧縮応力が増加し,痛みが誘発されることが明らかとなっている。さらに膝内反モーメントの増加によってlateral thrustが出現する(Schipplenin OD.1991)。これに対して外側広筋は1歩行周期において筋活動を増加することによって膝内反モーメントの増加やlateral thrustによる側方不安定性に寄与し,初期の膝OAにおいては膝内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。しかしながら,この外側広筋の筋活動が立脚期,遊脚期それぞれの周期別の活動については明らかにされていない。この筋活動の特徴を明らかにすることによって,膝関節に対する歩行周期別トレーニング方法の開発に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の外側広筋の筋活動の特徴を表面筋電図(EMG)を用いて明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人7名(25歳±4.5)と片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度の分類はKellgran-Lawrence分類(K/L分類)にIIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。歩行中の筋活動を計測するための電極を外側広筋,大腿二頭筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。歩行計測前,MMTの肢位にて3秒間のMVC(Maximum Voluntary Contraction)を測定した。歩行における筋活動の測定は音の合図に反応して,快適な歩行速度とした。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間正規化した。各筋の立脚期,遊脚期,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCに正規化した。統計処理はOA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数を用いて検証した。健常成人とOA患者のEMG振幅を歩行周期別にMann-Whitney U-testを用いて比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋のEMG振幅は有意な正の相関関係を示した。1歩行周期における外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した。また,立脚期,遊脚期それぞれの外側広筋,大腿二頭筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意に増加した(立脚期健常成人:21.79±3.63%,膝OA:72.09±19.06%,遊脚期健常成人:15.8±4.3%,膝OA:39.3±18.8%)。【考察】健常成人と比較して,外側広筋の筋活動が増加したことは先行研究と一致した。OA患者のK/L分類と1歩行周期における外側広筋の筋活動が相関したことは,側方不安定が増加するにつれて外側広筋の筋活動が増加したことを示す。さらに遊脚期,立脚期の周期別に外側広筋の筋活動が増加したことは立脚期における側方安定性に寄与する外側広筋の筋活動を遊脚期から,準備している予測的姿勢制御に関連している反応である可能性が示唆された。また,遊脚期において外側広筋,大腿二頭筋の筋活動が増加することにより正常な膝関節の関節運動を行えないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】変形性膝関節症患者の歩行時筋活動を解明することで歩行能力改善を目的とした歩行周期別トレーニングとして,遊脚期における筋活動に着目する必要性を示唆した。
著者
井上 純爾 澳 昂佑 森 拓也 田中 貴広 加藤 丈博 中野 英樹 松木 明好 木村 大輔 川原 勲
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.265-270, 2019 (Released:2019-04-26)
参考文献数
20

〔目的〕中殿筋の電気力学的遅延(EMD)を改善させる介入が Duchenne徴候に及ぼす効果について検証すること.〔対象〕寛骨臼回転骨切り術後9ヵ月経過した40歳代女性.本症例は患側の股関節外転筋力が徒手筋力検査にて4以上あるにもかかわらず歩行時にDuchenne徴候を呈していた.さらに患側中殿筋のEMDが健側と比較して延長していた.〔介入〕最大等尺性収縮運動を複数回実施させ,介入期間は5日間とした.〔結果〕介入後,患側中殿筋のEMD,立ち上がり速度,中間周波数が改善し,それに伴い歩行時の骨盤傾斜角および体幹傾斜角に改善を認めた.〔結語〕Duchenne徴候を呈する変形性股関節症術後患者に対して,等尺性収縮運動が中殿筋のEMDを改善させ,中殿筋のEMD改善と骨盤傾斜角の減少に関連を認めた.
著者
澳 昂佑 福田 章人 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0525, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約3000万人と推測され(平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省),膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こしてしまう。このため,膝OAの病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症(膝OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していることが報告されている(Schipplenin OD.1991)。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し,膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより,立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008),股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007)。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている(Rana S.2010)。これらの知見は膝OA患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を示唆している。しかしながら,膝OA患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象者は健常成人7名(25歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類(K/L分類)にて,IIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。対象者には筋電図の記録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson社製MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction:MVC)を等尺性収縮にて3秒間測定した。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間にて正規化した。各筋の1歩行周期における平均EMG振幅,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCにて正規化した。統計処理は健常成人とOA患者のEMG振幅をMann-Whitney U-testにて比較した。健常成人,OA患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅をPaired t-testにて比較した。OA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数にて検証した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者における外側広筋,中殿筋,内転筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅は有意差を認めなかった。他方,OA患者は外側広筋と比較して,内転筋のEMG振幅は有意な増加を認めた。OA患者のK/L分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05),内転筋(r=0.83,p>0.05)のEMG振幅は有意な正の相関関係を認めた。【考察】健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝OA患者においては外側広筋の筋活動より,内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝OA患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA患者の外側広筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を認めたことはOAの進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA患者の内転筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を示したことは膝OAの進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であり,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
加藤 丈博 平松 佑一 種本 翔 服部 暁穂 澳 昂佑 松木 明好 木村 大輔
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.145-150, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
34

〔目的〕椎体骨折後の安静臥床により身体機能やADLの獲得が遅延した症例の経過について報告する.〔対象と方法〕第2腰椎椎体骨折を受傷した70代後半の男性1名.約3週間の安静期間を経て離床が許可されたものの,廃用性の筋持久力および全身持久力の低下により歩行自立が困難となったため,運動耐用能の改善を意図した反復立ち上がり練習,下肢エルゴメーター,トレーニングマシンによる運動療法を実施した.〔結果〕筋持久力および全身持久力が改善し,歩行自立が可能となり,退院時には受傷前ADLを獲得した.〔結語〕安静臥床により生じる廃用性症候群は,椎体骨折後のADL改善に寄与する重要な予後不良因子となることが示された.今後は安静臥床期間における筋持久力および全身持久力に対する治療介入の有効性を検討する必要がある.