著者
奥村 太志
出版者
名古屋市立大学
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.47-55, 2002-03
被引用文献数
3

本研究は,退院の意向を持ちながら,10年以上の長期入院に至っている2名の精神分裂病患者が持つ,現状や退院に対する意識の特徴について,半構成的面接を通して述べられた患者の体験に基づいて検討したものである。その結果,以下の点が明らかになった。1)患者は,退院が現実的に困難な理由として,社会資源利用についての情報が不足していることや,家族の状況として受け入れが難しいことを認識していた。2)患者は,保護的環境である病院の中で,病院に順応するという形で無理をしない生き方を獲得してきたにもかかわらず,社会に適応するための準備をするという意味では無理をしなくてはならないという矛盾を抱えていた。つまり,今の自分にとって社会復帰が実現不可能かもしれないという自己評価の低下が,リハビリテーションなどへの活動意欲の低下へとつながり,現実には長期入院に至っていた。3)患者は,自分自身が入院に至った理由を病気によるものではなく,家族や周囲の理解不足や,生育暦に影響された自分の対応のまずさにあったと考え,さらに長期入院という経過そのものが,自分の社会適応を阻んでいるとしていた。同時に,過去の体験を消化できず,未だに拘り続ける自分を認識しており,それが現実レベルの不安となり,対処方法が見つからずにいた。4)患者は,面接を通して,病院の中でどのような生活をし,どのような体験をしてきたかを言語化することによって,客観的に自己を捉え,現状を認識し,洞察することができたと考えられた。