著者
今藤 夏子 奥田 しおり 大林 夏湖 上野 隆平 高村 健二
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.13-26, 2016-10-03 (Released:2018-02-28)
参考文献数
46

ユスリカは広範な分布域とその種多様性から,陸水生態系における主要な環境指標種として用いられる。しかし,形態による分類・同定が難しく,塩基配列情報に基づくDNAバーコーディングの併用が有用であると考えられる。我々は様々な保存状態のユスリカ標本について,複数の方法でDNAバーコーディングを進め,塩基配列の取得率が標本の保存状態やDNA抽出方法によってどのように影響されたかについて比較を行った。シリカメンブレンフィルターを用いた精製は,保存状態に拠らず取得率が高く,特に貴重な標本や保存状態の悪い標本に適していると考えられた。一方,粗抽出や安価なキットによる抽出も,保存状態が良い標本や大量の標本を扱う際には有用であることが示された。ただし,室温で乾燥した標本や古い標本などに対しては,粗抽出法は有意に塩基配列の取得率が低くなったことから注意が必要である。古い標本などDNAの断片化により塩基配列が取得できないことが想定される場合は,シークエンス領域を短くすることで,取得率が回復できる場合もあった。また,翅の乾燥プレパラート標本や,水面から採集される羽化殻についてもDNA抽出とシークエンスを行った。成功率はそれぞれ18.0 %と41.7 %と決して高くはなかったが,目的に合致すれば,乾燥した翅標本や羽化殻も,DNAバーコーディングにおいて有用な試料となり得ると考えられた。