著者
奥田 花也 片山 郁夫 佐久間 博 河合 研志
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Brucite (水酸化マグネシウム)は蛇紋岩の主構成鉱物の一つであり、超苦鉄質岩の水和反応によって形成される。これまでbruciteは粒径が非常に小さく天然環境で観察されにくいことから注目されてこなかったが、近年の研究では含水下マントルウェッジにおいてantigoriteと安定に共存し(Kawahara et al., 2016)、さらにマントルウェッジでの長期スロースリップがbruciteの形成に伴う高有効法線応力によって説明される可能性も示唆されている(Mizukami et al., 2014)。さらに、bruciteの存在はマントルウェッジ中の岩石の摩擦の安定性を変える可能性がある。このようにbruciteは水和した超苦鉄質岩帯における地震活動に影響する可能性があるが、bruciteの摩擦特性はこれまであまり調べられていなかった。本研究では一連の摩擦実験によりbruciteの基礎的な摩擦特性を報告する。摩擦実験は粒径70 nmの合成試薬を用いて広島大学の二軸摩擦試験機により行った。大気乾燥下と含水条件下の両方で、様々な垂直応力下(10, 20, 40, 60 MPa)で実験を行った。最大の剪断変位は20 mmであり、実験初期の剪断速度は3 μm/secとした。33 μm/secでのvelocity step testを数回行い、それぞれのstepから速度状態依存摩擦構成則(RSF)を用いて定量的に摩擦の不安定性を解析した。乾燥下において、定常状態の摩擦係数はおよそ0.40であり、不安定滑り(velocity-weakeningまたはstick-slip)が全ての垂直応力で観察された。剪断変位が2 mm程度において摩擦係数に明瞭なピークが観察され、このピークの摩擦係数は垂直応力に反比例した。含水下においては、ピークの摩擦係数は乾燥下と同様垂直応力に反比例したが、摩擦係数自体は乾燥下の場合より低かった。垂直応力が10と20 MPaの場合はvelocity-weakeningが観察されたが、40と60 MPaの高い垂直応力の場合はvelocity-strengtheningに変化した。こう垂直応力での安定滑りは100 MPaの垂直応力での先行研究と調和的である(Moore & Lockner, 2007)。RSF則のaとbの値は乾燥下の場合の方が含水下の場合より小さく、臨界すべり距離dcも乾燥下の場合の方が含水下の場合より短かった。Antigoriteはbruciteよりも高い摩擦係数を示すため、bruciteの不安定な摩擦挙動は含水した超苦鉄質岩帯において地震を引き起こす可能性がある。なお本研究では温度依存性については調べていない。発表では、実験したガウジの微細構造観察を通して摩擦特性のメカニズムについて考察を行い、実験結果と先行研究でのモデルから天然の超苦鉄質岩帯における地震活動について議論する予定である。