- 著者
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奥野 将成
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究の目的は、ラマン顕微分光法をイメージング手法として成熟させ、ラマン・イメージの取得時間を著しく短縮することである。平成23年度における、本研究の成果としては、次のとおりである。1.CARS分光顕微鏡の生細胞への応用。動物細胞への界面活性剤の作用について、時間分解測定を行い、ラマン分光イメージとしてそれらの動的挙動の追跡を行った。それにより、界面活性剤が細胞内に数10mMの濃度で蓄積していることが示唆された。さらに、細胞内膜輸送に関係する微小管の生成を阻害する薬剤を滴下し、同様の実験を行った。薬剤を滴下しない場合と比較して、有意に界面活性剤の蓄積速度が減衰した。これにより、界面活性剤の細胞内への取り込みに、細胞内膜輸送が関係していることが示唆された。これは、従来の顕微鏡技術では観測できなかった分子のダイナミクスであり、本研究で製作した広帯域のラマンスペクトルを高速で取得できる装置によって、はじめて明らかになった。また、本研究で開発した、CARS分光顕微鏡と最大エントロピー法を組み合わせる技術によって、細胞内の分子濃度を定量的に見積もることに成功した。2.ラマン分光イメージングの絶対定量化の試み。前年度の研究をさらに発展させ、さまざまな生体分子について、それらのラマンバンドの絶対ラマン散乱断面積を求め、それを用いることで、生体分子の生体中濃度を見積もった。シトクロムbおよびc、フェニルアラニン残基、核酸(DNAおよびRNA)、脂質分子の濃度を見積もった。また、生体中の脂質分子の不飽和度をレーザー焦点中の平均値として見積もることに成功した。これは、従来の蛍光顕微鏡などの方法では得ることのできない情報である。また、2つの国際会議、及び2つの国内会議に出席、発表を行い、他の研究者との交流を深め、研究に関する示唆を得た。