著者
姉川 大輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

ヒトを含む多くの哺乳類にとって、体温を約37℃に維持することは非常に重要である。実際ヒトの場合、体温が18℃を下回ると心停止することが報告されている。一方で、冬眠する哺乳類の中には、冬眠中体温が10℃以下になるにも関わらず、生命を維持できるものが存在する。しかし、冬眠動物が、なぜ低体温状態でも生存可能なのかは未だ不明である。本研究は、冬眠動物の低温耐性の機構の解明を目指している。これまでに本研究により、冬眠動物シリアンハムスターは、冬眠中に顕著な腎・肝機能障害を示さないことが明らかになった。さらに、冬眠しない哺乳類であるマウスと、冬眠動物ハムスター、それぞれの肝細胞を低温で培養することで、ハムスターは細胞自律的な低温耐性をもつことが明らかとなった。この細胞自律的な低温耐性が、冬眠中の臓器機能の維持、ひいては生命維持に寄与していると考えられる。さらに、この低温耐性は、冬眠していない時と比べ、冬眠中のハムスターでより増強されることも判明した。この結果は、冬眠していない時期から、冬眠までの間で、細胞レベルで性質変化が起きることを示唆している。医療現場では、移植用臓器の低温保存や低体温療法が行われる例があるが、長期間の低温処理は患者の予後に悪影響を及ぼすことが知られている。冬眠動物の低温耐性の分子機構が明らかになれば、これら治療法の改善に応用できる可能性があり、医学的な意義も大きい。現在、低温耐性の分子機構解明を目指し、低温時に発現変動する遺伝子や、低温時に誘導される代謝変化に着目し、解析を進めている。