著者
孫 勇 宮里 達郎
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は酸素が不純物として存在している場合、3C-SiC薄膜のエピ成長に与える影響を明かにすることを目的とする。酸素は空気中でも多く存在し、薄膜原料や成長雰囲気への混入、薄膜の支持基板のシリコン結晶中の吸蔵酸素などから、酸素が不純物としてSiC薄膜の性質に与える影響を解明することが薄膜のエピ成長にとても重要な課題である。本研究では、水素プラズマスパッタリング法を用いてシリコン基板上に3C-SiC薄膜を作製し、二つの方法によって不純物酸素の影響を調べた。第一に、プラズマ成長雰囲気に微量な酸素ガスを導入し薄膜の性質に与える影響を調べる。第二に、シリコン基板中の酸素含有量を変え、基板中酸素が薄膜性質に与える影響を調べる。研究の結果、次の事実を明らかにした。まず、プラズマ成長雰囲気に微量な酸素を導入した場合、酸素は薄膜に導入され安定な構造を形成する。これにより薄膜の結晶性が悪化し抵抗率やドーパントの活性化率などに影響を与えると考えられる。同じ酸素量を導入した場合、約650℃で微小なSiO2結晶相が形成され、これが核となって異常な速度でウエスカーが成長する。結果としてSiC薄膜に多数のウエスカーが観察される。約850℃前後で薄膜がSiCの微粒子になり荷電粒子の移動度に相当な影響を与えると思われる。約950℃前後に薄膜は層状構造になり組成もずれ、Si/C比は約1:1からC-richになる。次に、通常シリコンウエハの強度を保つためにある程度の酸素が導入されている。基板中酸素の影響を調べるために、我々はシリコン基板に電流を流し電子と酸素欠陥との相互作用によって酸素の影響が拡大され、その影響が実際に観察できるようになった。650℃以上の成長温度では、この酸素の影響が無視できなくなる。つまり、酸素を多く含むシリコン基板は、SiC薄膜の支持基板として適切ではないことを判明した。成長温度が650℃を超えると、酸素欠陥からシリコン基板が蒸発しはじめ、基板空洞化が進む。基板の空洞化によりSiC薄膜の結晶性を著しく劣化させることが判った。