著者
孫 詩彧
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.109-122, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
8

本稿は未就学の第一子を持つ共働き家庭を対象に,その家事育児の分担と調整がなされるプロセスにおける夫と妻の権力経験を検討した.各家庭の役割分担は,子どもが生まれることで平等に向けて進む傾向が確認される一方,平等にたどり着くことが難しい.そこに潜む権力を捉えるため,本稿はKomter(1989)による「三つの権力(顕在的・潜在的・不可視的)」の枠組で分析した.その結果,顕在的権力が次第に潜在的・不可視的へと移行する傾向を確認し,その移行過程に加担する夫妻以外からの権力の影響が存在していることが明らかになった.本稿において妻が家事育児の主な担い手である状態を維持する権力作用を,不可視的権力に着目して考察したところ,平等な役割分担を実現するには夫妻の協力だけではなく,過去の権力経験や夫妻以外の第三者による影響も含めて議論する必要があると分かった.
著者
孫 詩彧
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.129, pp.1-15, 2017-12-22

本研究は権力過程に焦点を当て,先行研究を批判的に整理するものである。夫妻の権力関係を議論する際,研究者による測定と当事者自らの評価に不一致が見られた。それを説明するため,権力がどのように作用するかの過程に注目して研究がなされてきた。これまでの研究では次の二つの次元から過程が捉えられてきた。第一に「家庭内重大事項の最終的意思決定に至るまでのプロセス」,第二に夫妻の権力関係そのものが形成されるプロセスが挙げられる。資源の内容を経済的から文化的,情緒的なものなどに広げつつ,社会構造と関連付けて夫妻間の意識的・無意識的な交渉,依存関係,権力の顕在的・潜在的・不可視的な形とその規定要因が議論されてきた。だがほとんどの研究は権力を客体化し,能力として捉えるため,権力の過程が二次的な存在となる。この問題は近年の研究において指摘され,権力を関係として捉え直す視点から研究が展開されつつある。
著者
孫 詩彧
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.171-191, 2020-12-23

共働き夫妻の家事育児は遂行の時間や頻度から見て分担が進んでいるものの,妻に偏っている点で夫片働き家庭と共通している。これを受けて役割分担の研究は共働き夫妻に限定して規定要因の再検討を行った。一方,子どもの誕生と成長につれて夫妻間の役割分担が硬直化し,調整可能性が制限されることの議論がほぼなされていない。本研究は夫妻双方から集めたペアデータを用い,育休の取得と利用を手がかりに分析した。その結果,調整可能性の内実として「互換可能性」と「代替可能性」を明らかにした。妻のみ育休を取る場合,夫妻間の交渉が抑えられて役割の互換をしなくなり,夫の家事育児遂行が限られた結果,夫妻間の代替も難しくなる。役割分担の調整可能性に寄与する観点から,男性の育休取得率を上げるよりも,取得と利用における夫妻間の差に注目する必要がある。夫妻が共に育休を取る,もしくは取らなくても子育てができる環境が重要である。