著者
佐々木 大祐 宇波 明 関 二郎 宮前 陽一 黄 基旭 永沼 章 神吉 将之 西原 久美子 平本 昌志 由利 正利 梅野 仁美 森口 聡 見鳥 光 廣田 里香
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

腎乳頭部壊死(RPN; Renal Papillary Necrosis)は,糖尿病患者や鎮痛剤・抗がん剤等の服用等によって生じる腎障害の一つであるが,発症初期からヒトのRPNを鋭敏に検出するバイオマーカー(BM)の報告はなく,薬剤の開発や臨床的使用を困難にしている。そこで我々は,トキシコプロテオミクスの技術を利用してRPNを早期検出するための新規BMを探索した。<br>2-bromoethylamine hydrobromide(BEA)を雄ラット各5例に単回腹腔内投与(0,3,10,30,100mg/kg)し,投与直後から24時間蓄尿後剖検した。血液化学的検査及び腎臓の病理組織学的検査の結果,30mg/kg以上の投与群でBUNの増加やRPNが認められた。これらの結果を基に尿検体を4グループ(対照群,10mg/kg・RPNなし,30mg/kg・RPN有・BUN正常値,30mg/kg・RPN有・BUN増加)に分けプール尿を調製した。それらを脱塩濃縮後,トリプシン消化及びiTRAQラベル化し,2次元LC-MS/MSによるグループ間比較定量分析を実施した結果,RPNの認められた動物の尿中で増加していた94種の蛋白質BM候補を見出した。<br>次に,これらのBM候補のうち変動の程度が大きかった25候補について,まずは早期診断BMとしての可能性を検討した。BEAを雄ラット各8例(対照群は各6例)に単回腹腔内投与(0,30,100mg/kg)し,投与直後~6時間(0-6h)蓄尿後に剖検する群,0-6h及び投与後6時間~24時間(6-24h)蓄尿後に剖検する群をそれぞれ設けた。投与後6時間の剖検群ではRPNは認められなかったが,投与24時間ではいずれの投与群でもRPNが観察された。6-24h蓄尿について各BM候補をMultiple reaction monitoring法にて定量した結果,いずれのBM候補もRPNの認められた動物の尿中で増加していた。そのうちの4種のBM候補は,24時間後にRPNの認められた動物の0-6h蓄尿中でも増加傾向が見られたため,RPNが発症する前に変動するBM候補である可能性が考えられた。