著者
宇賀 貴紀
出版者
順天堂大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

長期の学習によって、感覚情報により鋭敏に反応できるようになる学習過程を「知覚学習」と呼ぶ。知覚学習の脳内メカニズムに関する現在の定説は、「感覚情報を担うニューロンの感度が、学習の結果、より鋭敏になることで実現されている」というものである。しかし、サル第一次視覚野ニューロンの感度は学習によってほとんど変化せず、個体の学習能力を説明できないことが知られている。本研究では、知覚学習では感覚ニューロンの感度が上がるのではなく、「学習により、情報量の多い有用な感覚ニューロンから選択的に情報を読み出すことができるようになる」という新しい説を検証する。昨年度までに、サルがランダムドットステレオグラムの奥行きを答える奥行き弁別課題を学習する過程を行動レベルで追いながら大脳皮質MT野ニューロンの活動を記録した。その結果、ニューロンの弁別閾値は学習過程で変化しなかったのに対し、ニューロン活動からサルの答えを予測できる確率が訓練により上昇することがわかった。今年度はさらに、短期の学習、すなわち日内学習ではどのようなニューロン活動の変化が見られるのかを解析した。すると驚いたことに、日内学習ではニューロンの感度が上昇するのに対し、ニューロン活動からサルの答えを予測できる確率は上昇しないことがわかった。これらの結果は、短期の学習では感覚情報を担うニューロンの感度がより鋭敏になるのに対し、長期の学習では感度の高い感覚ニューロンから上手く情報を読み出すことができるようになることを示唆する。