- 著者
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宇野 瑞木
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
本年度(4月から10月末まで)は、主として、次の二つの研究活動を行った。1)本研究の中心課題である<二十四孝>説話をめぐる孝の表象に関して、とくに前近代までの中国と日本における展開をまとめた博士学位論文(東京大学大学院総合文化研究科にて受理)を出版物として公開するための準備を行ってきた。本書は、既に今年度の出版助成金(学術図書)を受けることが決定しており、今年度末までに『孝の風景――説話表象文化論序説』(仮タイトル)として、勉誠出版株式会社から刊行される予定である。本論の構成は以下の通り。第一部 図像の力(第一章 後漢墓の孝の表象――山東省嘉祥県武氏祠堂画像石を中心に/第二章 六朝時代以降の孝子図――墓における複数の世界観と孝との融合/第三章孝子図から二十四孝図へ――遼・宋代以降を中心に)第二部 語りが生起する場(第一章 郭巨説話の母子像――唐代仏教寺院における唱導を中心に/第二章 郭巨説話の「母の悲しみ」――日本中世前期の安居院流唱導を中心に/第三章 日本中世の祖先供養の場と孝子説話――『金玉要集』の孟宗説話を中心に)第三部 出版メディアの空間(第一章 和製二十四孝図の誕生――日中韓の図像比較から/第二章 蓑笠姿の孟宗――日本における二十四孝の絵画化と五山僧/第三章 江戸期における二十四孝イメージの氾濫/反乱――不孝、遊戯を契機として)さらに「基礎資料編」として、孝子説話関係の画像資料を、1渋川版と嵯峨本の図像、2渡来テキストの図像、3漢~金元墓の図像、4大画面制作、御伽草子の四項目に分類し掲載する。本書の大きな特徴として、孝を表象から捉えるという目的のもと、さまざまなメディア・地域・時代にわたる孝子説話関連の図像を蒐集・整理し、一挙に掲載している点が挙げられる。本書が刊行されれば、文学、美術史、さらには思想史やジェンダー研究など多方面の関連分野へと寄与できるものと考えている。2)研究対象とする地域の拡大という目標にむけて、前年度から引き続き朝鮮やベトナムといった中国周辺諸国の漢文テクストを読解してきた。4月25日には、立教大学で開催された朝鮮漢文研究会において、『海東高僧伝』から恵輪という求法僧の伝について発表した。