著者
安倍 啓貴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.187, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 日本には様々な局地風が存在するが, 六甲おろしはその中でも有名な局地風の一つである。六甲おろしは, 神戸市の六甲山地から吹き下ろす比較的強い北風である。その発生機構について, 近畿地方を通過した前線や低気圧に伴う冷気が六甲山地の北西に滞留したのち溢れ出すことで発生するということがわかっている(猪野ら,2008)。また, 六甲おろしが吹走する天気図のパターンについては, 冬型の気圧配置となる時, あるいは寒冷前線の通過時に多いことがわかっている(日下ら,2007)。 以上のことから, 六甲おろしの発生機構や天気図のパターンについては, ある程度の知見が得られている。しかし,六甲おろしの実態についての科学的な解析は進められていない。また,六甲おろしの吹走の傾向を複数地点で比較した研究はほとんどない。 そこで, 本研究では六甲おろしの実態を系統的に調査し,六甲おろしの風速や吹走頻度の地域差を明らかにすることを目的とする。2.方法(1)使用データと解析対象期間 神戸市環境常時監視システムの測定局の六甲山(図1中M.R), ポートタワー(Pt), 灘(Na), 灘浜(Nh), 東灘(En), 六甲アイランド(Ri), 港島(Mi), 兵庫南部(Hs), 南五葉(Sg)の、風向および風速の1時間データを使用した。なお,南五葉(Sg)は六甲山地より北側にある観測地点であり,六甲おろしの風速が六甲山地より南側で大きくなっていることを確認するためにデータを使用した。また, 2014年4月〜2019年3月を解析対象期間とした。(2)六甲おろしの定義 本研究では猪野ら(2008)および安倍(2017)をもとに, 風速が8.5m/s以上でかつ風向が西北西〜北である風を六甲おろしと定義した。(3)解析対象期間の抽出と解析手法 六甲おろしの定義に該当する日を,解析対象期間から抽出した。なお六甲おろしが1時間でも吹走した日を六甲おろし吹走日とした。抽出できた六甲おろし吹走日計989日を解析対象日とした。その後,観測地点毎に六甲おろしの風速や吹走頻度を比較した。六甲おろしの風速については、最大風速および平均風速についての風況マップを作成した。3.結果と考察 表2に観測地点ごとの六甲おろしの吹走日数を示す。Naは吹走日数が5年間で78日であるのに対して,Miは5年間で0日という結果になった。したがって,六甲おろしの吹走頻度は神戸市の中で大きな地域差があることが明らかになった。 六甲おろしの強さについて,図2-aは最大風速の分布に言及する。山頂付近に観測地点があるM.RやPtは,標高が高いため風速が大きい。一方で,標高にその他の観測地点と大きな差がないNaでも最大風速は15.1m/s-18.0m/sと,値が大きかった。そして山の麓から離れるにしたがって,次第に風速が小さくなっていくことが示された。 図2-bは平均風速の分布である。最大風速の分布と同様,M.RやPtは標高が高いため風速が大きく,Naではその他の観測地点と比べて風速が比較的大きい。最大風速の分布と同様,山の麓からの距離が長くなるにつれて,六甲おろしの風速は小さくなっていることが示された。しかし,EnとNaについては,山の麓からの距離はほぼ等しい。それにもかかわらず風速に差があるのは,観測地点の北側斜面における谷筋の有無が関係している可能性が考えられる。