著者
安原 望
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究により以下に示す結果を得た.1.p型Si基板上に作製したSiGe歪量子井戸を用いて逆バイアスにより電流注入を行うと,インパクトイオン化によりキャリアが生成される.このとき量子井戸からの発光が観測されない.本研究ではこの原因として,正孔は量子井戸に捕獲されるが,電子は伝導体のバンドオフセットが小さい為量子井戸に捕獲されずに表面近傍に分布することを明らかにした.このような電子と正孔が空間的に分離した状態を形成するための電圧には閾値が存在し,閾値電圧以下ではキャリア供給を抑えた状態で電子正孔分離状態を維持できることがわかった.これらの知見をもとに,閾値電圧以下において溜めておいたキャリアを,電圧を解除することにより任意の時間に発光させることが可能であるあることを示した.これはSiGe/Si歪量子井戸を用いた電気書き込み光読み取りのメモリー動作が可能であることを示しており,デバイス機能化にむけた大きな前進を得た.2.SiGe歪量子井戸では歪によりSiの6重縮退したΔ_1バレーが4重縮退と2重縮退に解けることにより,量子井戸に形成される励起子の結合エネルギーの縮退も解けることが知られている.通常量子井戸は面方向に圧縮歪を受けるため,4重縮退した励起子のみが形成されると考えられていたが,本研究では偏光測定により2重縮退した励起子も形成されていることを明らかにした.SiGe歪量子井戸に形成される間接励起子についての理解を深めた.3.GaSb・Si量子ドットでは光学利得が観測されている.本研究では光学利得の注入キャリア依存特性曲線に対し3準位モデルを仮定することによるフィッティングを行った.実験との比較によりGaSb・Si量子ドットの発光メカニズムは3準位系であることの証拠を示すことができた.