著者
安岡 かがり (四方 かがり)
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成24年4月より12月の期間は,フランス・モンペリエ市に滞在して研究活動を遂行した。文献・資料収集,およびこれまでの調査で収集したデータの整理をすすめ,学会発表と論文執筆作業をおこなった。平成24年5月に,モンペリエで開催された第13回国際民族生物学会(13th Congress of the International Society of Ethnobiology)の分科会"Histodcal ecology and legitimacy of customary rights to forest resources"において,"Abandonment of Cacao Agrofbrest : Integrating commercial cacao farming into traditional shifyting cultivation in southeastern Cameroon"のタイトルで発表した。発表では,カメルーン東南部熱帯雨林地域におけるカカオ栽培の実践をとりあげ,農民が従来の焼畑システムにどのようにカカオ栽培を取り込んだのかについて論じた。従来,庇蔭樹が多く観察されるカメルーンのカカオ畑の景観は,カカオ・アグロフォレストと呼ばれ,多様性の高い景観として評価されてきた。調査地域においても多様な樹木が残るカカオ畑が観察されるが,本発表ではそれをアグロフォレストリーとして評価するのではなく,焼畑のバリエーション,すなわち動態的な土地利用のなかで創出される景観のひとつとして位置づけ,農民の生活全体のなかでの役割を明らかにした。また,平成23年11月に提出した学位論文をもとに,これまでの研究の成果を日本語の単行本としてまとめる作業をおこない,『焼畑の潜在力-アフリカ熱帯雨林の農業生態誌』のタイトルで出版した。本書では,カメルーン東南部の熱帯雨林地域において焼畑を主たる生業としているバンガンドゥ社会を対象とし,かれらの農業実践についての記述・分析を通じて,焼畑が,人びとが森と共存しながら生活していく基盤としての潜在力をもっていることを明らかにした。とくに,商品作物であるカカオ生産の拡大というグローバルな市場経済との接合にさいして,バンガンドゥが従来の焼畑の営みをどのように改変・調整することで対応したのかに着目しながら,焼畑に関わる人びとの知識や技術,そしてその生態基盤としての熱帯雨林のもつ潜在力について総合的に論じた。