著者
安田 一美
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.97-111, 2021 (Released:2022-07-01)

人間が経験する時間に物理的時間tと心理的時間 τがある(松田他 1996)。人間の各個体に注目したとき,常にこれら2つの時間が同時に経験されている。経験される(t,τ)の組み合わせは,その個体の一生を通して,t-τ平面上にひとつの軌跡を描く。その軌跡を解析することが本論文の主題である。特に注目するのは,生命の発現期と終末期における軌跡の挙動である。本論文では,特殊相対性理論が時間に及ぼす効果は無視する。解析のために本論文では個体の生命力を表す無次元パラメタとして,生命機能指数α(t)という概念を設定した。α(t)は個体の生命発現時と生命終焉時に0で,中間の時間帯(常態期)で正の有限値をとるtに関する連続で微分可能な関数である。t,τ,αは,相互に関係しあって変化する。その関係式を dt/dτ=α(t) と設定しこれを「2つの時間の方程式」,或いは短く「生命指数方程式」と名付けた。α(t)の発現期と終末期における関数形はTaylorの定理を用いて,一般性を失わないように決めた。個体の一生にわたる(t,τ)軌道を計算し次のことが判明した。軌跡は単調増加の連続曲線を描き,tに関しては有限区間に,τに関しては無限区間に分布する。すなわち物理的時間(体の時間)は有限であるが,心理的時間(心の時間)は前方と後方に無限,即ち始まりも終わりもない,ことが判明した。