著者
安田 明太 小森 健太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.770, 2003

【はじめに】本邦での医学研究における統計的方法の重要性への認識は一般的には高いとは言えない。筆者は第37回日本理学療法学術大会(以下静岡学会)で前回の学会抄録集を基に、「理学療法研究における統計学の現状」という演題名でその現状と問題点について述べたが、今回はデータ・尺度・t検定について、その学会でのコンセンサスが充分であるとは言い難いが、誤用について検討をした。【方法】静岡学会抄録集(837題)より、以下のことについて検討した。1.症例数とデータ数が一致していないことがある。延べ患者数で処理している。(例えば、11名の両下肢22脚など)。この状態でn=22として統計処理するには無理があるのではないか。2.尺度に対して統計処理の方法が適当でない。順序尺度はノンパラメトリック検定(以下ノンパラ)で処理しなければならないのに、パラメトリック検定で処理されている場合がある。〔例えば、ADL評価(FIM・バーサルインデックスなど)のように、数値を振り当てて、スコア化したもの。〕またその逆で数量データ(間隔尺度以上)に対してノンパラで処理されているものがある。3."対応のあるt検定"を適用すべきものに対して、"t検定"を使用したと記載しているものがある。("t検定"と"対応のあるt検定"との区別がついていない。)【結果と考察】 1.症例数とデータ数が一致しないものは23件あっが、7件に関しては統計処理をしていないので、まちがいであるとは言えない。残り16件の内、7件は基礎研究などで健常者からのデータや、対照群としてデータをとったものであった。4件はTKA術後で、3件がその他の膝疾患であった。動物の器官には2つが一組の対になって構成された器官が少なくないが、ここでは、両下肢(膝)を対象にして測定し1人から2つのデータをとったものが多かった。それには少しでもデータ数を増やしたいという思いがあったのかも知れない。2.数量データ(間隔尺度以上)にノンパラを使用していたものは13件、逆にFIMなどの順序尺度に対してパラメトリック検定を使っているものは10件であった。医学上の評価、例えばアプガー指数・長谷川スケール・ADL評価のFIMやバーサルインデックスは、いっけん間隔尺度のように見えるが本来は順序尺度であり、ノンパラで検定されなければならない。 3.ここでは4題が"対応のあるt検定"を適用しなければならないのに、"t検定"を使用したと記載していた。"対応のあるt検定"は一標本の時間的な前後の比較、左右差(健側と患側の比較)など、一つの標本に関して、2群を比較してその差を検定するものであるが、たぶん"対応のあるt検定"と"t検定"の区別がついていないのではないかと推測する。