著者
安田 英峻
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.21-36, 2021 (Released:2021-04-16)
参考文献数
66

本稿は、ポスト・サッチャー時代におけるイギリスの保守党政治がどのような展開を見せているかを分析するため、メイジャー政権(1990~1997)を取り上げる。メイジャー政権に関する先行研究では、サッチャー政権が招いた社会的・経済的格差を始めとした負の遺産に対し、新たな政策路線を提起できなかったという評価が根強い。本稿はこの理解に修正を加えることを目的にしている。本稿では、メイジャー政権下の保守党が提起した新たな政治理念に注目し、それが国内政策の展開に与えた影響を考察する。分析の結果、当時の党知識人が提起した「市民的保守主義」の理念が、公共サービスの質的改善を目的とする「市民憲章」において反映されていたことが明らかとなった。本稿は、サッチャリズムに代わる新たな政策路線として、メイジャー政権は地方自治体やその関連組織である学校、病院、行政などのコミュニティ活性化を進める理念を打ち出し、実際の国内政策において展開したことを明らかにした。