著者
門屋 寿 谷口 友季子
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-18, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
65

冷戦の終結以降、競争的な選挙を実施する権威主義体制が増加した。このような現実を受け、選挙が権威主義体制の命運に与える効果についての実証研究が積み重ねられてきた。しかし、選挙がどのような政治現象に影響し、体制転換をもたらすのかはいまだ不透明である。本稿では、体制転換をもたらす重要なメカニズムである大衆蜂起に焦点を当て、権威主義体制下での選挙が蜂起の発生に与える効果を検証する。本稿の分析結果より、選挙の実施年に蜂起が促進される一方で、自由公正度の高い選挙の実施経験を積むほど、蜂起が抑制されることが明らかになった。この結果は、選挙が短期的に権威主義体制を不安定化させる一方で、長期的にはむしろ安定化させるという、権威主義体制の命運に与える効果を検討した研究と整合的であり、不透明であった選挙の効果のメカニズム解明に貢献している。また、本稿は、大衆蜂起という体制外アクターからの脅威に着目することで、権威主義体制下での選挙の効果についてのさらなる知見を積み上げるものである。
著者
久保田 徳仁
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.19-40, 2017 (Released:2020-01-29)
参考文献数
55

国連などが実施する平和維持活動(PKO)は、PKOを受け入れる紛争当事国だけでなく、要員を提供する国(要員提供国)にも影響を及ぼすことが知られてきた。近年様々な議論が行われているが、計量分析を用いて理論の一般的妥当性を検証する研究は始まったばかりである。本稿の目的はクーデタに関する先行研究とPKO要員提供国に関する先行研究を組み合わせ、計量分析を通じてPKOの要員提供がクーデタに及ぼす影響を検証することにある。理論的な分析を通じ、PKOがもたらす4つの効果である、軍への資源配分の増大、国内任務能力向上、部隊の分散、シビリアンコントロール規範の受容、を取り上げ、クーデタの発生、成否との関係を整理する。そしてPKOの要員提供の4つの効果は政治体制ごとに異なることを示す。計量分析を通じて「国連PKOへの要員提供はクーデタの『成否』に影響を及ぼすが、政治体制ごとにその効果は異なり、特に民主主義国では要員提供に伴いクーデタの成功率が下がり、非民主主義国では要員提供に伴いクーデタの成功率が高まる」ことを示す。
著者
安中 進
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-39, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本研究は政治体制と栄養不足の関係を考察する。本研究は飢饉と異なり学問的蓄積の乏しい栄養不足を対象に、状況が最も深刻だと考えられているサブサハラ・アフリカにおいて、1991年から2014年にいたるTime-Series-Cross-Section(TSCS)データを用いた統計的分析によって、民主主義国家が他の変数を統制した上で民主主義自体の効果で栄養不足の改善に好ましい影響を与えているという分析結果を報告した。これは民主主義の好ましい影響が特に貧しい国々において見られることを意味し、これまで民主主義は貧しい国々では、うまく機能しないとした先行研究とは異なる結果である。また、貧困国のマラウイを対象にした事例分析によって、民主化後の農業を中心とする政策が栄養不足減少に寄与したメカニズムを説明した。
著者
新川 匠郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-22, 2016 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本論はドイツの州での大連立成立パターンを問うものである。従来の経験的分析では、異なる大連立の仕組みを捉える比較の視座が欠落しがちであった。また政党の動機と制度にフォーカスした理論的分析もドイツの州の多様性から限られた特徴を引き出すのが主であった。本論は、多元的で結合的な因果を想定した大連立分析から従来の研究にあった空白へ光を当てることを試みる。そこでは、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の事例を通じて大連立に向けた制度的条件を浮き彫りにする。それが議会少数派と権力分掌する一院制という条件である。この知見を踏まえた条件組み合わせ分析を通じて本論は、「権力を分掌する一院制下では、分極化した政党間競合を伴い議会多数派の形成に行き詰った場合に大連立が選択肢になる」という仮説を提起する。この結果は政党の動機・制度のどちらかで大連立を説明しきるのは困難と想起させるが、議会権限(veto point)の議論を洗練させる機会になると提起する。
著者
奥 健太郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-22, 2020 (Released:2020-03-25)
参考文献数
48

近年の日本では、日本の自民党政権では政策決定が内閣と与党に「二元化」されているのに対し、イギリスでは内閣に「一元化」されているとの見方が広く受容されている。本稿はこのような典型的なイギリス理解に修正を加えることを目的としたものである。そのために本稿が光を当てるのがイギリスの二大政党に設置された党内委員会である。本稿は第一に党内委員会が設置された歴史的経緯を検証し、第二に保守党と労働党の党内委員会の影響力に差が生じた要因を考察した。第三に保守党の農業委員会を事例として、党内委員会の影響力とその機能を明らかにした。本稿は、以上のイギリス政治の検証を通じ、イギリスの政策決定が内閣に「一元化」されていると表現することは、ミスリーディングであることを指摘した。また保守党と労働党の党内委員会の比較からは、日本の自民党政権における事前審査制の形成に、首相(党首)の持つ資源の少なさが影響していることが示唆された。
著者
源島 穣
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-17, 2017 (Released:2020-01-29)
参考文献数
80

近年、先進諸国では社会問題が複合的に生じる「社会的排除」の解決を目指す「社会的包摂」のアプローチとして、官-民のアクターの協働に基づく「福祉ガバナンス」が重視されている。しかし参加アクターの権限やリソース、利益が本来的に異なるため、福祉ガバナンスの実施体制を構築することは容易でない。それにもかかわらず、イギリスのブレア政権は地方アクターと円滑な協働関係を構築し、社会的排除の深刻化した地域の再生を進展させた。これより本稿の課題は、「近隣地域再生政策」を事例に、ブレア政権はなぜ社会的包摂をめぐり、福祉ガバナンスの安定した実施体制を構築できたのか、その舵取りの過程を明らかにすることである。本稿は「相互作用ガバナンス論」に基づいて分析し、福祉ガバナンスの政治目標として社会的包摂が設定および共有される過程、地方アクターの意向を反映させる制度および政府のアカウンタビリティを確立する制度が策定される過程、地方アクターによる事業実施過程を明らかにした。いずれの過程においても、ブレア政権は主導的に舵取りすることで、安定した実施体制を構築することに成功したのである。
著者
上條 諒貴
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-30, 2018 (Released:2020-01-29)
参考文献数
31

本稿は、同一政党内での首相の交代という、内閣の終了に関する従来の理論では説明困難な現象に対して、党首選出制度の違いに着目することで接近を試みるものである。本稿ではまず、党首選出制度の開放性(一般党員の関与)の違いが、選出される新首相の政策位置・能力・人気、そして現在の首相交代の可能性にどのように影響するかを考察するための数理モデルを構築する。モデルの検討の結果、議員のみで党首を選出する閉鎖的党首選出制度の下でのほうが、一般党員が関与する開放的選出制度の下より首相交代が起こりやすいという仮説が導かれる。その後、オーストラリア、カナダ、日本、イギリスの首相データを用いた生存分析によって、数理モデルの含意を検証する。分析の結果、一般党員など議会外政党が関与する党首選出制度の下の首相より、議員のみで党首を選出する制度の下の首相の方が交代するリスクが有意に高いことが示される。
著者
浜中 新吾 白谷 望
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-19, 2015 (Released:2020-01-29)
参考文献数
66

2011年初頭から体制転換をもたらす変動が中東地域を覆ったにも関わらず、君主制諸国は比較的安定を維持している。なぜ中東では君主制国家が共和制以上に安定性を維持しているのだろうか。中東地域における君主制、とりわけ湾岸産油国の安定を説明するのに有用な理論として、レンティア国家論と王朝君主制論が存在する。しかしモロッコは産油国ではないため、レンティア国家論で説明できるアラブ君主制諸国のように、原油レントを使って国民から「忠誠を買う」正統性の調達手段を持たない。またモロッコは政府首脳に王族を配していないため、王朝君主制に基づく説明にも該当しない。このように君主制の安定をめぐる議論にはパズルが存在する。本稿では、国王が多党制の議会を認め、各党の政治対立を調停することで、君主が正統性を調達しているという仮説に着目した。エリート間政治と大衆意識の連関についての前提条件が満たされた上で、仮説が正しいならば、観察可能な含意として、国民は議会制度に代表される「民主主義」を評価しているはずである。本稿では計量的実証分析を行うとともに、事例研究によってモロッコが「与党・野党のローテーション制」と呼ぶべき体制安定化メカニズムを持つことを明らかにした。