著者
安田 雅美 岩月 宏泰 岩月 順子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G1743-G1743, 2008

【緒言】高齢者にケアサービスを提供する多くの関連職種は,職種間の協力及び連携無しにはサービスの質を維持し向上させることは困難となる.チーム医療には職種間の共働が欠かせない反面,顧客満足が重視される組織では役割期待の矛盾や,職業集団間での関心が相違するなど複雑な利害関係が生じやすい.この現状を踏まえ、適した協力体制を検討するために、各職業集団が持つ情意要因を明らかにすることも必要と思われる.今回,人間の心の要素を5つの自我状態から構成されるとする交流分析から,高齢者ケアに携わる職種間の特徴について検討した.<BR>【方法】対象は本調査の趣旨を理解した高齢者ケアに携わる職員に対し無記名自記式質問紙調査で回収し得た調査票151名(男性36名,女性115名)で.職種別に4群(看護職35名,介護職66名,療法士31名,その他19名)に分類した.調査票は基本属性(7項目),勤務状況(3項目),新版東大式エゴグラム(TEG2)ほかから構成されていた.TEG2は55項目から5つの自我状態(CP:批判的親,NP:養育的親,A:大人,FC:自由な子供,AC従順な子供)について各要素間の関係と外部に放出している心的エネルギー量を視覚化及びパターン分類したものである.統計学的検討は基本属性の項目とパターン分類間の関係についてX2検定を群間比較にKruskal-Wallis検定を行い,有意水準5%未満とした.<BR>【結果】全対象者のパターン分類ではN型(お人好し,殉教者,仕事中毒)37.8%と最も多く,次いで逆N型(孤高の人,自分勝手,気分屋)9.9%,平坦型(超人,凡庸,物静か)7.3%と続いたが,NP優位(世話焼き),NP低位(癇癪持ち)に属する者はみられなかった.<BR> 高齢者に日常的に接する職業では人間的,献身的に接することが求められる反面,サービスの成果を得るために客観的な態度も必要であり、その2つの心性を両立させることが期待される.全対象者のエゴグラムでN型(NPとACが同程度に高く,CPとAが相対的に低いパターン)が最も多かったのはこのような深刻な役割葛藤を要求させることの多い職業集団の情意を示すものといえる.一方,全対象者の基本属性の項目とパターン分類との関係では年齢階級に有意差を認めたが,性別,職種別及び就業年数との間で有意な差を認めなかった.なお,各自我状態の群間比較ではAに有意な差を認めたが,CP,NP及びACに有意な差を認めなかった.Aの一般的特徴である「現実的」,「冷静沈着」,「客観性の重視」の自我状態で看護職,療法士が他の2群より高値を示した.<BR>【結論】高齢者にケアサービスを提供する関連職種間の協力及び連携はサービスの質を維持し向上させるために欠かせない.そのため,組織内の各職業集団が持つ情意要因の客観的評価としてTEG2を活用することも有用と思われる.<BR><BR>