- 著者
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岩月 宏泰
由留木 裕子
文野 住文
中村 あゆみ
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2014
【はじめに】近年,本邦では医療や福祉の領域でも雇用就業形態や若者を中心とした職業観の変化が急速に進み,理学療法士を確保したい施設や企業のニーズとの間に解離が生じている。このため,理学療法士養成校では各方面との連携を深め,企業などの最新の情報や人材についてのニーズを把握する必要がある。また,在学中の学生に,将来従事する仕事や職場の状況を理解させ,自己の職業適性,職業生活設計について考える機会を与えることが不可欠である。例えば,理学療法士養成校や地域の実情に応じて,就業やボランティアの体験,卒業生との対話など多様な機会を与えることも前述の目的を達成する上で有用と考えられる。これまで理学療法学生が入学時から卒業までにどのような過程を経て就業意識を培うか,入職後の職業生活に対する適応力を高める教育方法に言及した報告は少ない。今回,理学療法学生の職業生活に対する意識について,質問紙調査の結果から学年別特徴を明らかにし,卒業後に社会的・職業的自立が可能となるような教育的方策について検討した。【説明と同意】本研究の対象者には,青森県立保健大学研究倫理委員会の指針に従って,予め調査の趣旨を説明し了承した上で実施した。また,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。【方法】対象は青森県,北海道及び高知県に所在する理学療法学専攻の大学及び4年制専修学校に在籍する学生のうち,回答した569名(1年生146名,2年生143名,3年生143名及び4年生137名)であった。調査(留め置き法)時期は2011年6~9月と2013年6月の2回であり,調査票は基本属性,職業志向尺度(若林1983,12項目),成人キャリア成熟尺度(坂柳1999,9項目),職業決定尺度(研究者が作成,4項目)ほかで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,各測定尺度の下位尺度別に集計を行い,学年別比較には多重比較検定(Tukey法)を実施した。なお,各々の下位尺度間でPearson相関係数を算出した。【結果と考察】職業志向尺度の下位尺度のうち,「労働条件」と「人間関係」では学年差を認めなかった。しかし,「職務挑戦」については1~3年生が12.5点台であったが,4年生で11.7±2.8点と下位3学年より有意な低値を示した。また,成人キャリア成熟尺度の「関心性」には学年差を認めなかったが,「自律性」と「計画性」で4年生が下位3学年より有意な低値を示した。なお,職業決定尺度では学年差を認めなかったが,4年生における成人キャリア成熟尺度の下位尺度との相関係数は「関心性」0.27,「自律性」0.22及び「計画性」0.45(p<0.05)であった。1~3年生では学年進行に伴い,自己のキャリアに対して積極的な関心を持ち,それに対する取り組み姿勢も自律的と考えられるので,職業観や職業意識を高める啓発活動の継続性が重要と考えられた。一方,成人キャリア成熟尺度の学年別比較では「自律性」と「計画性」について,4年生では下位学年より有意な低値を示し,職業志向尺度の「職務挑戦」でも同様の結果を認めたことから,彼らには職業生活設計に対する積極的な関心が見出されず,社会的・職業的自立するためのレディネスの確立が遅れていることが推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,4年生が下位学年より「職務挑戦」やキャリア形成で重要な位置を占める「自律性」と「計画性」で消極的な態度を示した事から,長期休暇や入職前に理学療法職場でインターンシップを体験させるなどの機会を与えることで,主体的に選択する職業観や就業意識を育成する必要性が示唆された。