- 著者
-
安藤 光代
- 出版者
- 慶應義塾大学出版会
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.5, pp.67-84, 2007-12
商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty50周年記念論文近年急増する自由貿易協定(FTA)の経済効果については,日本のFTA を含め,従来からCGE モデルシミュレーション分析等による事前評価が数多くなされてきた。しかし,ここ数年のFTA 締結に向けた日本の積極的な動きを鑑みれば,既存のFTA の経済効果を事後的に把握し,将来のFTA 締結への政策的含意を得ることが重要である。本論文では,日本の経済連携協定(EPA)の経済効果について,初期段階の効果ではあるものの,実質的な関税削減効果の詳細な分析やグラビティ・モデル推計などを通じて事後的に評価し,今後のFTA/EPA の設計における政策的含意を議論した。 日星EPA については,遅ればせながらFTA の波に乗る第一歩を踏み出したという意味で一定の存在意義があっただろうが,実質的な関税削減は少なく,直接的な貿易自由化の効果はかなり限定的である。一方,日本にとって初めて農業分野での実質的な貿易自由化を伴った日墨EPAについては,輸出や投資の面で一定の効果が認められるが,現時点で直接的な貿易自由化の効果が顕著なのは完成車の輸出においてである。また,EPA によって設置されたビジネス環境整備委員会での二国間協議を通じたメキシコのビジネス環境の改善やメキシコの政府調達における日本企業の参加など,貿易自由化以外の面でも一定の効果が認められる。 今後の日本のFTA の設計において,特にMFN 関税の高い国との協定では,EPA 関税とMFN関税の逆転など段階的な関税削減の弊害を考慮すべきである。また,MFN 関税と同様,農業分野の一部の品目を中心に複雑な関税体系が採用される傾向にあるが,よりシンプルでかつ自由化水準の高いEPA が望ましい。そして,とりわけ日本企業の進出が盛んな国との協定では,日墨EPA でのビジネス環境整備委員会のようなチャンネルを活用し,貿易自由化以外の側面も柔軟に盛り込んでいくべきである。