著者
安達 香織
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

縄紋土器型式の設定と編年には、土器の形態や装飾だけでなく、技法の分析も有効である。本研究では、東北地方北部中期後半の土器型式編年の再構築を目的に、基礎資料の技法に着目した分析を行ない、以下の成果を得た。最花貝塚遺跡A地点出土土器のうち主体を占める、胴部に屈曲のない深鉢形土器(I類土器)は、形態・装飾だけでなく、技法に明確な特徴がある。I類土器には、平縁深鉢形の器体を成形後、「胴部(器面)縄紋」、「口縁部段」、「胴部沈線文」の全てあるいは一部が加えられている。各装飾の組み合わせ及び加飾の順序により、I類土器は、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」、3「胴部沈線文」の工程となるI A類、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」の工程となるIB類、1「器面縄紋」の工程となるI C類にわけられる。器体のサイズや縄紋原体の種類は、I A、I B、I C類の順でまとまりがある。つまり、最花貝塚遺跡A地点出土土器は、胴部に屈曲のある深鉢形土器(II類土器)とあわせて四とおりの土器を作りわける特徴的な製作システムで作られたと考えられる。一方、従来「最花式」と同一の型式とされることの多かった東津軽郡外ヶ浜町中の平遺跡出土第III群土器についても形態・装飾、技法の分析を行なった。その結果、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは区別できる形態・装飾、技法の特徴をもっていることが明らかになった。この一群は、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは異なる製作システムで作られている。前者を基準とする型式を最花A式、後者を基準とする型式を中の平III式と仮に呼ぶことにした。製作工程を含めた技法、形態・装飾の特徴が異なるだけでなく、文様の系譜も異なり、分布にも違いが認められることから、最花A式と中の平III式とは、従来のように同一系統に連続するものとしてではなく、概ね並行期の、それぞれ下北半島と津軽半島とを中心に分布する二つの型式として理解するほうが妥当である。