- 著者
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安部 力
- 出版者
- 岐阜大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
過重力環境下飼育によって引き起こされる摂食抑制の改善過重力(3G)環境下でラットを飼育すると摂食量の低下が見られ,この原因として,前庭系を介する酔いが考えられる。実際,前庭系を破壊したラットでは,摂食量低下の改善が見られた。今回,我々はセロトニンの5-HT2A受容体に注目した。5-HT2A受容体のアンタゴニストであるketanserinは,前庭器からの入力を受ける前庭神経核の神経活動を低下させる。そこで,ketanserinを慢性投与しながら過重力環境下で飼育し,摂食量の測定を行った。Ketanserinを投与したラットでは,前庭系を破壊したラットには及ぼないものの,有意な摂食量低下の抑制がみられた。このことから,過重力環境におけるラットの摂食量低下には前庭系が関与しており,その改善にketanserinが有効であることが示唆された。起立時の動脈血圧調節における前庭系の関与起立時には,血液が下方シフトし,静脈還流量・心拍出量が低下し,その結果動脈血圧の低下が生じる。この動脈血圧の低下は圧受容器反射により緩衝され,動脈血圧は維持される。また,姿勢変化時には前庭系に入力が入る。我々は,起立によって生じる動脈血圧低下の影響を小さくするために,前庭系がフィードフォワード的に働いているのではないかと仮説を立て,自由行動下ラットの起立時の動脈血圧を測定した。圧受容器および前庭系を破壊したラットでは,圧受容器だけを破壊したラットに比べ,起立時には有意な動脈血圧の低下が見られた。また麻酔下の実験では,前庭系が正常なラットではhead-up tilt時に交感神経活動が増加し動脈血圧の低下を防いでいることがわかった。このことから,姿勢変化時の動脈血圧の調節には,前庭系が関与していることがわかった。