著者
安部 日珠沙
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.336, pp.17, 2018 (Released:2020-08-01)

本研究は、幼児における道徳性の萌芽が、幼児の抱く憧れの気持ちを基盤とした人格の形成に伴って成されえることを思弁的に論証した。例えば、絵本や物語の読み聞かせなどを通じて、幼児は登場人物に憧れの気持ちを抱く。憧れの感情を善悪という観点からは論じえないため、教師は、幼児の憧れが望ましい方向に発達するよう援助していく必要がある。また、シェリングの憧憬論をもとにこれについて分析を行ったところ、憧れの気持ちを抱くことから人格の形成が始まり、憧れという抽象的なものを、知性を働かせて言語化し、具体的なものに昇華していく営みが人格の陶冶であり、善悪の概念もまたそれとともに生じてくることが分かった。総じて、教師にとって、幼児における人格の形成ないし道徳性の萌芽とは、幼児が様々な活動を楽しむ中で、自身の環境に対する憧れの気持ちを言葉によって明瞭に表現していく過程で自分を顧み、自分の精神性を発達させていけるように援助する営為だと言える。