著者
牛見 真博
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.336, pp.53, 2018 (Released:2020-08-01)

幕末の吉田松陰(1830-1859)は「狂」の思想を重んじた。「狂」は、もとは孔子が説いた儒家の概念で、志が高く進取の気性を有することを言い、孔子の後継者を自任する孟子も好んで用いている。松陰は、「狂」を原動力として、目の前の国難に対し、天子や藩主への忠誠心、愛国心を重んじ、徹底的なナショナリズムを貫こうとした。そして、この「狂」によって、最終的には自身が重んじ、儒家の最も基本的な道徳観の一つである「孝」までも否定するに至っている。本稿は、そうした松陰の原動力である「狂」の思想と実践について、彼が兵学者として社会に立脚していたことに基づくものであることを指摘する。また、松陰の「狂」を考えることは、一般的な道徳的イメージだけでは捉えきれない松陰の人物像の一端を浮かび上がらせることにもつながるであろう。
著者
木原 一彰
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.333, pp.55, 2015 (Released:2019-09-02)

昭和33年の特設以降、半世紀以上実施されてきた「道徳の時間の学習」において、授業改善のための多様な工夫がなされてきた。しかし、「特別の教科 道徳」へと移行しようとしている現在においても、「道徳の時間の受け止めの悪さや形骸化」が指摘されている。本稿では、道徳の時間の在り方として、「人の生き方に根ざしている一つの価値が、他のどのような価値に支えられることで行為として実現可能になるかを追究する『複数関連価値統合型』の道徳の時間」の可能性について、実践研究をもとに論ずる。道徳的価値そのものを連関、統合してその総体を道徳性として組織化できるような道徳の時間を構想することは、学習指導要領の理念に叶うものである。児童・生徒の発達段階や受け止めの実態を考慮し、 『複数関連価値統合型』による道徳の時間の学習を構想し実践することで、価値の内面的自覚を促進し、諸価値の統合による道徳性の育成を促すことが可能となる。
著者
山田 真由美
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.333, pp.43, 2015 (Released:2019-09-02)

本論文は、中教審答申・別記「期待される人間像」に明記される「生命の根源」がいかなる概念であるかということを念頭に、主査として同文書をまとめた京都学派の哲学者・高坂正顕の歴史哲学を再検討する。教育行政に積極的に関与したことから高坂は、国家や天皇に従属する「人間像」を主張する国家主義者であると解されることが一般的であった。しかしながら彼の思索を吟味してみると、その根柢には西田哲学を継承した「絶対無」の思想が横たわり、一貫して絶対の不在が説かれている。特に本稿でみた『歴史の意味とその行方』1950では、人間性の超越的否定性なる性格ゆえに、歴史的世界に存するすべては絶対的相対性をその本質とする旨が強調される。そして高坂のいう「無」の概念を引き受けたとき、道徳教育は「無限の探究」という新たな可能性をひらくのである。
著者
木原 一彰
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.333, pp.55, 2015 (Released:2019-09-02)

昭和33年の特設以降、半世紀以上実施されてきた「道徳の時間の学習」において、授業改善のための多様な工夫がなされてきた。しかし、「特別の教科 道徳」へと移行しようとしている現在においても、「道徳の時間の受け止めの悪さや形骸化」が指摘されている。本稿では、道徳の時間の在り方として、「人の生き方に根ざしている一つの価値が、他のどのような価値に支えられることで行為として実現可能になるかを追究する『複数関連価値統合型』の道徳の時間」の可能性について、実践研究をもとに論ずる。道徳的価値そのものを連関、統合してその総体を道徳性として組織化できるような道徳の時間を構想することは、学習指導要領の理念に叶うものである。児童・生徒の発達段階や受け止めの実態を考慮し、『複数関連価値統合型』による道徳の時間の学習を構想し実践することで、価値の内面的自覚を促進し、諸価値の統合による道徳性の育成を促すことが可能となる。
著者
岩佐 信道
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.336, pp.41, 2018 (Released:2020-08-01)

「道徳性を養うこと」という学習指導要領における道徳教育の目標に真剣に向き合うには、そもそも道徳性とはどういうもので、どのように向上、発達していくかを的確に理解する必要がある。かつてこれに真正面から取り組み、中心的な位置を占めたのがコールバーグであり、その道徳性発達段階論であったが、その研究は判断の側面に偏っているとの批判や反省がある。筆者はかつて、こうした反省をふまえ、人間の実生活における道徳性の発達、向上を捉える試みとして、「三方よし」(自分も、相手も、第三者もともによくなるように)という枠組みと、「相互依存のネットワーク」(私たち人間は、すべての存在との密接なつながりの中で、相互に支え合って生きている)というアプローチについて論じた。ここでは、新たな材料を加えてこの2つの考え方をさらに展開し、道徳性発達研究と道徳教育の進展の基礎としたい。
著者
安部 日珠沙
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.336, pp.17, 2018 (Released:2020-08-01)

本研究は、幼児における道徳性の萌芽が、幼児の抱く憧れの気持ちを基盤とした人格の形成に伴って成されえることを思弁的に論証した。例えば、絵本や物語の読み聞かせなどを通じて、幼児は登場人物に憧れの気持ちを抱く。憧れの感情を善悪という観点からは論じえないため、教師は、幼児の憧れが望ましい方向に発達するよう援助していく必要がある。また、シェリングの憧憬論をもとにこれについて分析を行ったところ、憧れの気持ちを抱くことから人格の形成が始まり、憧れという抽象的なものを、知性を働かせて言語化し、具体的なものに昇華していく営みが人格の陶冶であり、善悪の概念もまたそれとともに生じてくることが分かった。総じて、教師にとって、幼児における人格の形成ないし道徳性の萌芽とは、幼児が様々な活動を楽しむ中で、自身の環境に対する憧れの気持ちを言葉によって明瞭に表現していく過程で自分を顧み、自分の精神性を発達させていけるように援助する営為だと言える。
著者
荊木 聡
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
vol.335, pp.53, 2017 (Released:2019-09-02)

道徳科では、ねらいへのアプローチ方法がより多面的・多角的で多様性に富む方向へ拡張される。タブーを排した柔軟で斬新な実践にスポットが当たるのは必定であるが、他面、60年間に亘る我が国の道徳教育に包蔵された豊かな叡知を継承・活用するという方向性も極めて重要である。そこで、まず「読み取り」の意味を再確認するとともに「価値の一般化」を再評価した。次に、具体的な教材を通して生徒の実態および議論する場の重要性を明確にした。さらに、それらを踏まえつつ、道徳的価値の自覚を促す視座「価値認識」・「自己認識」・「自己展望」を導入し、授業実践に臨んだ。アンケートの結果からは、中学生の「考え、議論する道徳」に対する「興味関心」や「必要性の実感」が向上するとともに、教師においては議論が停滞したときの対処法等に困難や不安を感じている情況が明らかとなった。
著者
荒木 寿友
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.336, pp.119, 2018 (Released:2020-08-01)

本稿では、道徳の授業において用いられる教材、とりわけ読み物教材が資質・能力を育んでいく教材になりえているのかについて検討し、これからの道徳授業においてどのような教材が必要となってくるのか示すことを目的とした。この検討にあたり、まず道徳の授業における教育内容と教材の関係、すなわち「教材を教える」のか「教材で教える」のかについて概観した。次いで、道徳の授業において定番となっている読み物教材を取り上げ、それらの多くは具体的な望ましい姿が描かれ、明示的にも暗黙的にもそれを児童生徒に伝達していることから、そのような読み物教材を「価値伝達型読み物教材」とした。価値伝達型教材は教授主義に基づいており、それに代わるものとして認知主義、状況主義などを取り上げ、 それらに基づく教材の可能性を示した。最終的に、資質・能力を育んでいく道徳の教材「資質・能力育成型教材」について考察を加えた。
著者
田沼 茂紀
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.335, pp.83, 2017 (Released:2019-09-02)

本稿で目指すのは、アクティブ・ラーニングの視点に立った道徳科授業の基本的な考え方についての見解と、これまで忌避あるいは軽視されがちだった道徳授業を教科教育学的視点に立つ指導方法論へと転換することで実効性あるものにしていこうとする提案である。具体的な方法論的改善提案としては、教科教育では当たり前となっている課題探求型授業への転換、さらにはパッケージ型ユニット(小単元構成)による子供の主体的自立性を重視した道徳科授業創造の基本的な考え方についてである。
著者
那 楽
出版者
日本道徳教育学会
雑誌
道徳と教育 (ISSN:02887797)
巻号頁・発行日
no.333, 2015

本研究は、中国の小学校における道徳教育の特質と現代的課題を解明するために、「思想品徳」から「品徳と生活」への転換に着目しながら、中国の小学校における道徳教育の内容の変容について検討した。本稿では、小学校の道徳教育の基礎に当たる低学年について考察した。考察の結果、次のことが明らかになった。すなわち、『課程標準』に関して言えば、大きくは日本の視点と類似点も見られるが、中国の小学校低学年における道徳教育は、教師が行動や型を児童に一方的に押し付け、道徳的価値を単なる知識や行為として教えこもうとしている道徳教育から、児童のよい道徳性と習慣を育成させ、生活に情熱を持つように導くという道徳教育へ転換していることが分かる。教科書に関して言えば、中国の小学校低学年における道徳教育は、児童の立場から、相手への尊重や思いやりから価値についての自覚を内的に深め、道徳の大切さを理解させる道徳教育と考えられる。