著者
安食 和宏 Ajiki Kazuhiro
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.27, 2010-03-28

本稿では、我が国の国有林野事業の戦後の推移について具体的に把握するとともに、特に1980年代以後の「縮小」段階の国有林野事業に見られる地域性を明らかにすることを試みた。その結果、以下のような諸点が明らかになった。全国的な特徴のみを挙げると、まず伐採事業・造林事業のいずれにおいても、1980年頃より明確な減少傾向が継続し、事業量は大きく減少した。ただし、最近(2002ないし2003年度以後)では、両者とも増加傾向に転じている。そして、伐採においては間伐が主体となっており、造林では天然更新から人工更新への回帰がみられるなど、事業の内容にも変化が生じている。もっとも、いずれの事業でも直傭部分はほぼ消滅しており、実際の作業を担っているのは民間事業体である。次に、職員数の変化についてみると、定員内職員については1970年代後半から、定員外職員(その中心となる基幹作業職員)については80年代前半から、一貫して減少が続いてきた。そして、常勤の作業員の過剰な減少の結果、現場作業においては臨時労働力への依存を強めるという、数十年前に回帰するような現象が生じている。以上のように、この20~30年間に国有林野事業に生じた変化はあまりに大きく、それはすでに、「林業経営」から実質的に撤退しているわけであり、今や国有林野事業の中心は「森林管理」であるという新たな局面に移行している。
著者
安食 和宏
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-17, 2001

フィリピンでは,1960年代以降,マングローブ林の開発が急速に進展しており,それらの土地の多くは養殖池に転用されてきた。本稿は,(1)地元住民がどのようにマングローブを利用してきたのか,(2)養殖池建設によって住民生活にどのような影響が生じているのかを,具体的な村落調査に基づいて把握しようと試みたものである。対象地域は,ボホール島の南西部に位置するマリボホック町リンコッド集落である。26戸での聞き取り調査の結果,マングローブの中でも特にニッパヤシの葉を材料とするニッパ・シングル作りが,集落にとって重要な産業であること,またマングローブ地域は重要な漁場として機能していることが明らかとなった。しかし,1980年頃からマングローブ林地の一部は養殖池に転用されてきた。ニッパヤシ工芸の関係者や漁業従事者はこれを大きな脅威として受け止めているが,養殖池での賃労働に依存する住民も少なくない。すなわちマングローブ林の開発は,地元住民に対して不利益と利益を同時に与えている。住民の属性(職業など)や階層による違いに注目しながら,このような関連性をいかに見極めるか,評価するかが重要な課題となる。