- 著者
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安食 和宏
- 出版者
- 三重大学人文学部文化学科
- 雑誌
- 人文論叢 (ISSN:02897253)
- 巻号頁・発行日
- no.18, pp.1-17, 2001
フィリピンでは,1960年代以降,マングローブ林の開発が急速に進展しており,それらの土地の多くは養殖池に転用されてきた。本稿は,(1)地元住民がどのようにマングローブを利用してきたのか,(2)養殖池建設によって住民生活にどのような影響が生じているのかを,具体的な村落調査に基づいて把握しようと試みたものである。対象地域は,ボホール島の南西部に位置するマリボホック町リンコッド集落である。26戸での聞き取り調査の結果,マングローブの中でも特にニッパヤシの葉を材料とするニッパ・シングル作りが,集落にとって重要な産業であること,またマングローブ地域は重要な漁場として機能していることが明らかとなった。しかし,1980年頃からマングローブ林地の一部は養殖池に転用されてきた。ニッパヤシ工芸の関係者や漁業従事者はこれを大きな脅威として受け止めているが,養殖池での賃労働に依存する住民も少なくない。すなわちマングローブ林の開発は,地元住民に対して不利益と利益を同時に与えている。住民の属性(職業など)や階層による違いに注目しながら,このような関連性をいかに見極めるか,評価するかが重要な課題となる。