著者
張 涵泳 沖井 英里香 後藤 栄治 宮原 文彦 宮崎 潤二 前田 一 古澤 英生 宮里 学 吉田 茂二郎 白石 進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.88-93, 2019-04-01 (Released:2019-06-01)
参考文献数
31

九州の8地域に生息するマツノザイセンチュウの遺伝的多様性と遺伝的構造の解明を10個のEST遺伝子座の塩基配列多型を用いて行った。九州全域の遺伝子分化係数(GST)は0.53で,全遺伝子多様度(HT=0.63)の半分以上が地域集団間に存在し,集団間に大きな差異があった。8地域集団のHTは0.12~0.59であり,多様性に富んでいたのは,川内,新富,松浦,唐津(0.59,0.57,0.56,0.55)で,地域集団内におけるGST(0.43,0.35,0.25,0.25)も高く,被害木内集団(亜集団)間に大きな差違があった。一方,多様性が特に低いのは,天草,宮崎(0.12,0.18)で,そのGSTも小さく(0.01,0.02),亜集団間の違いは極めて小さかった。これらの2集団の形成には,ボトルネック/創始者効果が影響していることが示唆された。九州では地域集団が保有する多様性の二極化が進行していると思われる。
著者
森 康浩 上田 景子 大川 雅史 宮原 文彦
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.127-134, 2012-06-01 (Released:2012-07-05)
参考文献数
25

木材のエンドユーザーのニーズを把握するため, 一般の福岡県民にアンケートを行った結果, 木材の嫌いな点も改善すべき点も「シロアリに弱い」が最多回答であった。そこで, DNA分析で品種を明らかにしたスギの心材木粉でイエシロアリまたはヤマトシロアリを飼育し, 殺蟻性の高いスギ挿し木品種を探索した。供試品種の中ではアカバとイワオは死虫率が高く, 半数致死日数も短かったことから, 殺蟻性が高いと考えられた。特に, アカバは産地が異なっても高い殺蟻性を示した。これに対し, ホンスギは一貫して低い殺蟻牲を示した。抽出成分を除去した木粉でヤマトシロアリを飼育すると, アカバをはじめ各スギ品種の殺蟻性は大きく低下した。一方, 木粉は摂食できないが揮発性成分には曝露される条件下でヤマトシロアリを飼育しても, イワオとアカバはコントロールに比べて高い死虫率を示した。以上のように, 殺蟻性の品種特性は一定の再現性が得られ, これは揮発性成分を含む抽出成分の特性に左右されていることが示唆された。したがって, 殺蟻性の高いスギ品種を用いた挿し木林業は, エンドユーザーの求める木材を持続的に供給するための選択肢の一つになりうると考えられた。