著者
泉 桂子 佐々木 理沙
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.1-12, 2021-02-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1

現在マツタケは生育場所となるアカマツ林の荒廃と減少によりその生産量が減少しているが,季節の食材として珍重される。料理雑誌・漫画を資料に用い,マツタケの高級食材としての評価は家庭料理においていつ頃定着したのかを明らかにした。1950年代後半から1960年代の消費者にとってマツタケは一面では惣菜用のキノコであった。料理書では他のキノコの代替や節約料理の材料となり,洋食や中華料理にも用いられ,多様な調理方法,切り方や加熱法が見られた。レシピサイトを用いて家庭料理におけるマツタケの代替物を調査した。限られた資料からではあるがエリンギ単独,またはマツタケ味の吸い物の素(1964年発売)と組み合わせたマツタケ代替レシピが確認された。さらに,岩手県内の山村を事例として,マツタケの採取や生育環境づくり,その後の稼得機会の獲得,調理,贈与,保存の楽しみや技術について聴き取り調査を行った。採取者は高齢となってもマツタケ採取に熱中し,現金収入や共食,贈与を楽しみに採取のためアカマツ林の採取地に入り込んだり,環境整備を行ったりしていた。これら採取者の調理は和風料理であり,保存には冷凍や真空パックを用いていた。
著者
松井 哲哉 田中 信行 八木橋 勉
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.7-13, 2007 (Released:2008-07-10)
参考文献数
43
被引用文献数
7 7

温暖化した2100年における白神山地のブナ林の分布適域を,分類樹モデルと二つの気候変化シナリオ(RCM20とCCSR/NIES)によって予測し,ブナ林の将来変化について考察した。4気候変数と5土地変数を用いたブナ林の分布予測モデルENVIによると,白神山地地域のブナ林の分布は冬期降水量(PRW)と暖かさの指数(WI)で制限されている。二つの気候変化シナリオのPRWは将来も変化が少ないので,将来ブナ林分布へ影響を与える主要因はWIである。分布確率0.5以上の分布適域は,現在の気候下では世界遺産地域の95.4%を占めるが,2100年にはRCM20シナリオで0.6%に減少し,CCSR/NIESシナリオでは消滅する。ブナ優占林の分布下限のWI 85.3に相当する標高は,現在は43 mだが,RCM20シナリオでは588 m,CCSR/NIESシナリオでは909 mに上昇する。現地調査と文献情報にもとづいて求めたブナ林の垂直分布域は,標高260~1,070 mであった。施業管理計画図によると自然遺産地域の約8割が林齢150~200年生であるので,2100年には多くのブナが壮齢期から老齢期を迎える。温度上昇により,ブナ林下限域から,ブナの死亡後にミズナラやコナラなどの落葉広葉樹が成長し,ブナの分布密度の低下が進行する可能性がある。
著者
美濃羽 靖 和田 誠 田中 紡
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.351-360, 2021-10-01 (Released:2021-11-12)
参考文献数
45

本研究では,立木を叩いた際に発生した音を画像化し深層学習を用いて樹高,材積を推定した。立木20本の樹幹を1本につき100回打撃した際に発生した音を録音,0.6秒間における各周波数の音圧を表したスペクトログラムを10,000枚作成し入力画像とした。深層学習システムはNNCを,深層学習アルゴリズムは出力層を回帰層としたLeNetを用いた。学習用データを5セットに分割し,三つの学習パターン(LP-Ⅰ:訓練事例8割,未知事例2割,LP-Ⅱ:大中小三区分から1本ずつ抽出した木を未知事例,LP-Ⅲ:2本ずつ抜出した木を未知事例)の樹高,材積を推定した。推定精度の検証には平均絶対誤差,平均絶対パーセント誤差および決定係数を用いた。その結果,各学習パターンの未知事例に対するR2値は,LP-Ⅲの樹高(0.3672)を除き,非常に高い値(0.9192から0.9996)を示した。LP-Ⅲの樹高では,30 m以上が過小に,30 m以下が過大に推定される傾向を示した。一方,材積はどの学習パターンにおいても全体的に偏りのない推定を行うことができたことから,本手法は材積推定において有効であることが示唆された。
著者
白川 誠 石川 陽 渕上 拓朗 田中 恵
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.7, pp.351-362, 2022-12-28 (Released:2023-01-21)
参考文献数
61

都市近郊二次林における外生菌根菌(以下,菌根菌)の種多様性を明らかにするために,東京都青梅市のコナラを優占樹種とする二次林において,ラインセンサスおよびプロットサンプリングを実施し,子実体436個,菌根327根端,菌核3個の計766サンプルを採取した。形態分類およびrDNA-ITS領域を対象とした分子生物学的解析の結果,23科41属159 MOTUの菌根菌が同定され,林内にはテングタケ属,イグチ科,カラハツタケ属,ベニタケ属,ロウタケ属,ラシャタケ属が広く分布していることが確認された。一方で,ショウロ属やヌメリイグチ属など,センサスルート上やプロット内の各所において局所的に分布する菌種も多数確認された。これらのことから,人為的攪乱を受ける比較的小面積の二次林においても多様な菌根菌種が生息していることが明らかになった。また,プロットから得られた菌根菌を対象とした階層クラスター分析では,各プロットは共通の頻出群を有するものの,局所的に分布する科によって特徴づけられた。樹種構成の相違や人為的攪乱,林内に存在する多様な微地形といった要因が群集組成に影響を及ぼしていることが示唆された。
著者
田端 雅進 井城 泰一 田村 美帆 渡辺 敦史
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.87-95, 2023-03-01 (Released:2023-03-29)
参考文献数
32

国宝・重要文化財の保存・修復のために日本産漆の増産や安定供給が不可欠である。しかしながら,漆滲出量の多いクローンはほとんど明らかになっていない。本研究ではDNA分析によって茨城県7カ所の分根由来のウルシ林におけるクローン構造を解明し,複数のウルシクローンの漆滲出量を測定した。さらに漆滲出長,成長特性および葉特性と漆滲出量との関連性を調べ,漆滲出量の間接的な評価が可能な指標を探索した。その結果,調査したサイト1~7においてクローンA~Jの10クローンが検出され,検出されたクローンEが全体の約50%を占め,植栽個体に特定クローンの偏りが生じていた。漆滲出量はクローン間で有意な違いがあり,また胸高直径においてもクローン間差が認められ,胸高直径が大きいクローンで漆滲出量が多かった。また,成長・葉特性についてはサイトが異なってもクローンの順位がほとんど変わらず,10年生前後から20年生の個体を対象に漆滲出量の多いクローンを漆滲出長に加えて胸高直径や葉特性から簡易に判別できると考えられた。
著者
宮本 基杖
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.27-43, 2023-01-20 (Released:2023-02-17)
参考文献数
106

熱帯林減少は地球規模の環境問題であると共に温室効果ガスの排出源でもあることから,森林減少を止める対策が国際的な取組として広く推進されている。しかし,その成果は当初の期待に及ばず,地域社会への影響など懸念の声もある。取組が難航する理由は適切な対策を選択できていないためであり,それは森林減少の根本原因が理解されていないことに関連する。本稿では,世界の先行研究と著者の東南アジアでの実証研究を基に,森林減少の原因について解明された全容を示し,発生と制御の仕組みを明らかにすると共に,持続可能な解決策を提案する。森林減少の直接原因は農業地代(農地収益性)の上昇に集約される。主要な根本原因は貧困であることが特定された。森林減少の発生と制御の仕組みは農業地代・貧困率・森林率の3要因で説明できる。現行の取組は農業地代を低下させる対策が中心であるが,それは効果が高いものの,コストと社会的影響を考慮しなければ持続性が低い。他方,貧困削減策は根本的解決の効果があり,持続性も高いことが実証されている。世界の森林減少対策は抜本的改革が求められており,対策の主軸を農業地代低下策から貧困削減策に移すことが肝要である。
著者
タタウロワ ナデジダ 伊藤 幸男 山本 信次 林 雅秀 滝沢 裕子
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.284-290, 2023-08-01 (Released:2023-08-23)
参考文献数
10

本稿の課題は,ロシア連邦の自然保護制度の根拠法である,「特別自然保護地域法」(N33-FZ)の分析から国立公園の位置付け及びその制度の特徴を明らかにすることである。2000年代以降の変化は次の通りである。2013年の法改正により,国立公園の管理・運営は連邦予算機関が担うことになった。国立公園には私有地や先住民族等の住民が存在し,その権利に配慮する条文が追加され,それらを反映した六つのゾーニングに区分されている。近年,国立公園の条文には具体的な禁止事項が複数追加され,利用圧の高まりを反映したものと思われる。一方で,個人または法人への土地の賃貸が可能になるなど,より利用を助長する方向へと制度が改正された。
著者
平野 悠一郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.76-86, 2023-03-01 (Released:2023-03-29)
参考文献数
44

第二次世界大戦後の日本では,1950~70年代の各部門に跨る制度基盤の構築等を背景に,1980~90年代に森林内でもキャンプ場が次々に設置され,幅広い社会的承認に基づく森林利用としての地位が確立された。2000年代以降は,経済不況等を受けてキャンプ場経営が悪化し,その中から民間を中心とした再生の動きが見られてきた。この動きは,近年,キャンプ場を通じた森林利用を多様化させる方向性を示している。すなわち,森林内での教育・体験を掲げる組織キャンプ,滞在を主目的としたソロキャンプ,グランピング,ワーケーション,或いは,レジャーの充実等の利用者ニーズに対応した施設整備がなされてきた。また,この多様化の結果,キャンプ場運営を通じた様々な森林の有効活用と地域活性化への可能性が生まれている。各地のキャンプ場では,林地,立木,森林空間が活用され,利用者向けの薪生産が,森林管理・経営の担い手確保を含む地域の林業経営の再編・発展を促した事例も見られる。また,それらがもたらす雇用の確保に加え,利用者のニーズを地域の経済効果,交流・関係人口の増加,地域資源の総合的・持続的な利用に結びつける形で,地域活性化が促されつつある。
著者
山本 伸幸
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.295-302, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
47

明治期以降の都府県民有林行政における森林技術者任用の歴史的推移を検討することが本小論の目的である。第一に,都府県に近代林学教育を受けた森林技術者が初めて任用された明治期から現代に至るまでの全国的な動向の通史について,史資料を用いて明らかにした。都府県民有林行政における森林技術者の任用は明治30年代の水害対応を重要な契機とし,次第に各府県に浸透する。木炭を嚆矢とする府県営林産物検査機関設置の要員確保のため,1930年代後半に府県森林技術者は急増した。戦後1.1万人にまで達した都府県森林技術者は1951年森林法下の民有林行政を支えたが,21世紀以降急減し,現在に至る。第二に,近代化の端緒と言える各府県初の森林技術者の任用者および任用時期を史資料から割り出し,導入期の森林技術者任用の特徴について解明した。府県における初の森林技術者の氏名を特定し,全府県の任用に1895(明治32)から1912(明治45)年の18年間を要したこと,1890(明治23)年卒業者数が卓越していること等の知見を得た。
著者
正木 隆 佐藤 保 杉田 久志 田中 信行 八木橋 勉 小川 みふゆ 田内 裕之 田中 浩
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.17-23, 2012-02-01 (Released:2012-05-29)
参考文献数
19
被引用文献数
7 6

苗場山ブナ天然更新試験地の30年間のデータを解析し, 天然更新完了基準を検討した。試験地では1968年に5段階の強度 (皆伐∼対照区) での伐採, および5通りの林床処理 (刈り払い, かき起こし, 除草剤散布等) が行われ, 1978年には残存母樹も伐採された。本研究では残存母樹の伐採から4年後の1982年と2008年の植生調査 (各種の被度および最大高) および樹木の更新調査 (稚樹密度および稚樹高) の結果を解析した。高木性の樹木が更新 (2008年に高木性樹種の被度50%以上) する確率は, 1982年当時の稚樹密度・稚樹高・植生高でよく説明され, ブナに対象を限定した場合では, 稚樹の密度と高さのみでよく説明された。高木性樹種の更新の成功率は, 稚樹の密度が20万本/ha以上, かつ植生が除去された場合にようやく8割を超えると推定された。各地の広葉樹天然更新完了基準では, 稚樹高30cm, 密度5,000本/haという例が多いが, この基準は低すぎると考えられた。伐採前に前生稚樹の密度を高める等の作業を行わない限り, 天然下種によるブナ林の更新は難しいと考えられた。
著者
石崎 涼子 鹿又 秀聡 笹田 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.214-222, 2022-08-01 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

全国の市町村を対象に実施したアンケート調査等の結果に基づき,森林行政の担当職員の規模と専門性の現状を明らかにし,これらが森林行政に与えうる影響について検討した。近年,市町村森林行政の業務量は職員増を遥かに上回る規模で増加したと考えられ,現在,ほとんどの市町村が人員不足を感じている。職員数が多い市町村には森林行政に関わる専門性をもつ職員がいる団体が多く,相対的に幅広い種類の業務が実施され森林に行く頻度も高いが,職員数が少ない団体以上に多くの団体が人員不足を実感している。一方,人員不足を感じていない市町村の多くは,森林関係の業務量自体が少ない団体である。更新基準となる広葉樹の識別や崩壊危険地の判別には専門的な職員がいる市町村であっても知識等の不足を感じているケースが多く,職員数が非常に少ない団体には崩壊危険地の判別等について業務を通じて意識する機会がないとする団体が一定数存在する。以上から,職員数や専門性といった人員体制は,森林行政として担う業務の範囲や,現地確認やリスク判定等をどこまで行うかといった業務のレベルに影響を与えている可能性が示唆された。
著者
高山 範理 讃井 知 山浦 悠一
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.180-190, 2020-06-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
59
被引用文献数
1

主伐の時代を迎えた日本で林業が社会的に受け入れられるためには,伐採地の風景的価値を考慮した上で,生物多様性の保全や林業としての経済的合理性に配慮して,適切な主伐方法を選択する必要がある。そこで本研究では,針葉樹(トドマツ)人工林の皆伐地,群状に植栽木を残した伐採地(群状保持),ha当たり10本,50本,100本の広葉樹を単木的に残した伐採地(単木保持),広葉樹老齢木を残した伐採地,伐採前の人工林の7種類の異なる林分状況からなる写真を刺激として,非専門家が伐採地に懐く風景的価値(認知・評価)を調べ,さらに非専門家と専門家間で生物多様性の保全および林業としての経済的合理性に対する伐採地の評価を比較した。その結果,1) 非専門家は皆伐や老齢木保持をポジティブに認知する一方で,群状保持はネガティブに認知する可能性があること,2) 非専門家は樹木の伐採に抵抗感があるため,主伐の実施にあたってはその必要性や生態系保全への配慮,植林の実施等の情報を供与し理解を求めることが有効であること,3) 林業としての経済的合理性の評価については,非専門家と専門家の間にギャップがあり,非専門家の理解を得るためには情報交換や議論を重ねる必要があることなどが明らかになった。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.297-310, 2021-08-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
224

人工林における針葉樹外来種植栽についての現状や課題をまとめた。自生種よりも成長の良い外来種や,市場で優位的な販売性を持っている外来種などが植栽されており,気候変動に適応できる種として外来種が選択されていることもある。一方,植栽地以外への定着・拡散が確認され,地域の植生や生物相,水文や養分循環などに負の影響を及ぼしている例もある。外来種を植栽した後に侵略性が顕在化した際,その対策にはコストが非常にかかっている。外来種を導入する可否を判定するツールが開発されているが,侵略性の評価に加え,土壌や水文への影響,食植者耐性などを含めた評価が必要とされる。また,外来種は,それ自体に対する考え方やノベル・エコシステムの中での位置づけに議論が起こっている。外来種であるコウヨウザンの日本での植栽が開始されているが,原産地の中国では更新の失敗と生産性低下が課題とされており,それは根などからの他感物質が原因の一つであるとされる。人工林にどのような樹種を植栽するかは木材生産機能のみならず公益的機能に少なからず影響するため,様々な機能の面から事前の検討と影響の予測が必要であろう。
著者
松尾 晶穂 岩切 鮎佳 松下 範久 田端 雅進 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.254-261, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
34

ウルシの種子は,物理的休眠と生理的休眠を併せ持つ複合休眠状態にあると推測されている。ウルシ種子の発芽率を向上させるために,発芽促進に効果があると報告された方法を種子の物理的休眠と生理的休眠の打破に分けて評価した。ウルシ種子の物理的休眠の打破には,濃硫酸への60~120分の浸漬,または内果皮の一部除去が有効であった。濃硫酸に90分浸漬した後の種子では,種子の2カ所から吸水が始まることが観察された。濃硫酸浸漬後の種子に対する生理的休眠打破の方法としては,4~12週間の低温湿層処理が有効であった。しかし,内果皮を一部除去した後に低温湿層処理した種子は発芽しなかった。濃硫酸に90分浸漬させた後に8週間の低温湿層処理を行った種子の発芽率(73.2±2.7%)は,濃硫酸浸漬処理と低温湿層処理を単独で行った場合(それぞれ,0.8±1.0%,0.4±0.9%)や無処理の場合(0.0±0.0%)の発芽率よりも有意に高く,二つの処理を組み合わせた方法がウルシ種子の発芽促進に有効であることが確認された。
著者
奥田 圭 關 義和 小金澤 正昭
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.236-242, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
50
被引用文献数
11 5

シカの高密度化に伴う植生改変による鳥類群集への影響を明らかにするため, 栃木県奥日光のシカ密度の異なる3地域 (各地域8地点) において植生構造と鳥類群集の種組成の関係を調べた。シカ密度と植生条件との関係を調べた結果, シカ密度と生木本数, 胸高断面積合計, 樹種数との間に負の相関がみられ, シカの高密度化により植生構造が改変していることが示唆された。次に, TWINSPANと判別分析を用い, 鳥類群集の種組成の変化要因を調べた。TWINSPANの結果, 調査地点はグループA (シカ高密度地点) とB (シカ低密度地点) に, 鳥類はグループ1∼4に分類された。開放的な環境を選好する鳥種は主にグループ1に属し, グループAに多く出現した。低木層を採食場所とする鳥種は主にグループ4に属し, グループBに多く出現した。樹洞営巣性の鳥種は主にグループ2と3に属し, グループAとBに同程度出現した。また, 判別分析の結果, グループAとBの違いを最もよく判別する植生条件は, 低木層と亜高木層の生木本数と, 低木層の樹種数であった。以上から, 本調査地の鳥類群集の種組成が変化した主要因は, シカの高密度化に伴う植生改変であると結論した。
著者
山原 美奈 河合 昌孝 大場 広輔
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.157-160, 2005-04-01 (Released:2008-05-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

コウヤマキのアーバスキュラー菌根の感染形態を明らかにするために,短根の切片を光学顕微鏡で観察した。その結果,宿主の細胞から細胞へと直接伸長する菌糸とコイル状樹枝状体,嚢状体が認められ,Paris-typeの感染形態であることが判明した。比較観察したスギとヒノキの菌根は,それぞれParis-typeとArum-typeであった。
著者
鵜川 信 藤澤 義武 大塚 次郎 近藤 禎二 生方 正俊
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.239-244, 2023-07-01 (Released:2023-07-20)
参考文献数
33

ニホンノウサギが主軸を切断できるコウヨウザン植栽苗のサイズを明らかにすることを目的として,様々なサイズ(苗高82~197 cm)のコウヨウザン苗を鹿児島県垂水市のスギ皆伐地に60本植栽し,ノウサギによる主軸の切断を1年間にわたり観察した。実験中に15本の苗木が枯死したが,そのうちの1本は枯死前に主軸の食害を受けていた。生残苗では,25本の苗木で主軸の食害がみられた。苗木のサイズが大きくなるほど主軸の食害がみられなくなり,一般化線形モデルでは,植栽時の苗高が140 cm以上,または,高さ60 cmの幹直径が15 mmを超える苗木であれば主軸食害を受ける確率が10%まで低下することが推定された。したがって,植栽した苗木が成長し,苗高や幹直径がこれらの数値を上回れば,ノウサギによる主軸の切断を受けにくくなると考えられた。
著者
村上 智美 林田 光祐 荻山 紘一
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.174-180, 2006-06-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

サポニンを含む果皮とそれを除去するヤマガラの貯蔵行動がエゴノキ種子の発芽に及ぼす影響を明らかにするため, エゴノキの種子散布と発芽特性を東北地方の落葉広葉樹林で調べた。成熟果実は9月までにすべて樹上から消失した。4日間の観察期間中ヤマガラのみがエゴノキに飛来し, そのうちの80%で果実を運搬する行動がみられた。樹上からなくなった果実のうち, 83.0~87.2%が樹冠外に持ち出されたことから, 樹上果実の大半はヤマガラによって運搬されたと考えられる。残りの果実は自然落下したが, これらの果皮は11月中旬まで分解されずに残った。野外での発芽実験では, 果皮を除去した種子は36%の平均発芽率がみられたが, 果実は4%とわずかで, 種子の発芽率が有意に高かった。果皮に含まれるサポニンの量は果実が落下すると急激に減少することからサポニンが発芽を抑制しているとは考えにくい。ヤマガラの貯蔵行動は発芽阻害の原因となる果皮を除去するという行為を伴うので, エゴノキの種子を散布させるだけでなく, 発芽にも大きく貢献していると考えられる。