著者
小塩 隆士 宮尾 龍蔵
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAオピニオンペーパー
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-6, 2019

現在の日本社会が直面している、低成長・人口減少という転換期を乗り越えるためには、整合性のある政策を実施することが必要不可欠である。しかし、公表されている政府試算を見るだけでは、経済社会の望ましい将来像を描き、その実現に必要な政策を整合的な形で検討することは極めて難しい。内閣府が公表している「中長期試算」では2028年度までの経済財政状況の展望を示しているが、歳出内容や、個別歳出の性質に応じた抑制の程度について明示的に議論されていない。また、内閣官房など4府省による「社会保障見通し」も、その裏付けとなる財政の展望が示されていない。厚生労働省の「年金の財政検証」では、2115年度までの年金財政を検証しているが、それと密接な関係にある財政や社会保障全体の展望は示されていない。本来であれば、財政や社会保障全体について、その将来像や持続可能性の分析が一体的に行われなければならない。そこでわれわれが政府の経済前提を用いて将来の財政状況を試算したところ、政府の債務残高対名目GDP比は上昇を続け、財政収支の長期的な持続可能性が十分に確保されていないことが明らかとなった。中長期的な社会保障制度の見直しを検討する上で、今の政府の各試算では不十分であり、マクロ経済や財政状況に与える影響を定量的に分析し、長期的な視野で整合的に議論することが不可欠である。