- 著者
-
埜崎 都代子
宮崎 友晃
中館 俊夫
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.4, pp.413-420, 2014-08
作業療法の受療者に適切な作業選択をするための基礎的情報を得るために、臨床でよく用いられる「ぬり絵(以下PA)」作業が対象者に与える生理的・心理的作用について、ストレス課題と想定される「内田クレペリン精神検査(連続加算課題、以下CA)」との比較において検討した。女性24名(平均21歳)を対象にPAとCAという2つの課題を実施した。前安静20分、作業前半15分、休憩5分、作業後半15分、後安静20分、計75分間、同一時間帯、場所にて1課題ずつ2日間、実施した。実験中、5分毎の唾液αアミラーゼ(以下SAmy)、毎秒、心拍と脳血流量(酸素化ヘモグロビン濃度:oxy-HB)を継時的に測定した。また日本版POMS(Profile of Mood States)を用いて作業前後の気分を測定した。測定値平均の経時的変化と課題間の変化を分散分析法で、安静時と作業時の平均値を対応のあるt検定で、POMSはWilcoxonの符号付き順位和検定で差を検定した。有意水準は5%とした。その結果、心拍・脳血流量は作業中の変化はCAが大きいが、PAとCAに有意差はなく、両課題とも安静時より作業中は高値を示す類似した変化だった。一方、SAmyはPAとCAで異なる経時的変化を示し、両課題間には有意差が見られた。CAは安静時に対して作業中が有意に高値を示したが、PAは有意差がなく作業中低値の傾向もみられた。POMSによる気分の変化ではPAは「緊張・不安」「怒り・敵意」「活気」「抑うつ・落ち込み」「混乱」に有意な低下がみられた。CAは「緊張・不安」が高値となる傾向が示され、「活気」「混乱」のみ有意な低下を示した。以上から、自発的なPA作業が、CAにおける半強制的な計算作業と同程度の酸素要求量を持つ脳活動であるにもかかわらず、PA作業は心理的ストレスが認められない課題であることが示唆された。(著者抄録)