- 著者
-
宮崎 譲
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1996
Bi_2Te_3系熱電材料の使用可能な温度域を拡張し、高効率な熱電変換素子を実現させるために、キャリア濃度を傾斜させた材料の開発が期待されている。これまで、バルクについて多くの報告があるものの、薄膜の傾斜機能化に関する報告はなされていない。電解析出(電析)法は、室温近傍で金属相を得ることができ、また電析膜の組成や粒径を容易に制御することが可能な合成法である。さらに、装置が簡単で、任意形状試料の作製が可能などの特徴を有していることから、II-VI族化合物半導体膜の合成にも適用されつつある。Bi_2Te_3膜についても最近になって合成に関する報告がなされたが、電析膜の組成に最も大きく影響する析出電位と生成膜の組成や物性値の関係については調べられていない。本研究では、キャリア濃度(組成)が連続的に変化したBi_2Te_3系傾斜機能膜を作製するための基礎データを得ることを目的とし、BiおよびTeイオンを含む硝酸水溶液中で電流-電位曲線を作製して、Bi_2Te_3膜の得られる電位範囲を明らかにすることを試みた。続いて、その析出電位範囲内で、電位と得られた膜の組成、格子定数の関係を調べるとともに、膜のゼ-ベック係数を測定した。ポテンショスタットを用いてTi電極上に3電極方式で電析を行ったところ、-0.25〜+0.08V vs Ag・AgClにおいてBi_2Te_3の単相膜が得られた。析出電位の減少とともにBi_2Te_3のa軸長が増加し、逆にc軸長は減少する傾向が見られたことから、析出電位を変化させるにより膜の組成を制御できることが明らかになった。+0.02Vを境にこれより貴な電位ではn型膜が、卑な電位域ではp型膜が生成した。これまでのところ、物性測定が可能な緻密な膜は+0.02V近傍で合成された低キャリア濃度のものに限られており、ゼ-ベック係数の最高値は+0.04Vで作製された膜の-63.4μVK^<-1>(300K)である。