著者
宮崎 貴久子
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.8-11, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
20
被引用文献数
1

QOL(Quality of life)は患者立脚型アウトカム(Patient reported outcome: PRO)の一つとして、患者から直接得られた、患者の主観による生活の質あるいは生命の質に関する評価である。1980年代以降、QOLを計量心理学的あるいは科学的に測る目的でさまざまな尺度(質問票)が開発された。それぞれの疾患特有の症状に着目した疾患特異尺度と、広く一般の人々から患者にまで共通した項目で測定する包括的尺度がある。それらは、集団を対象として計測され、結果は統計学的な分析を経てからはじめて結果が公表される。一方で、臨床的にQOL評価を活用したいという要望も生じ、それに対応すべく臨床における最小重要差の算定を目指したのが、MID(Minimally important difference)調査研究である。尺度は、対象となる集団のQOLを正確に測る物差しであることに加えて、測定結果の差の臨床的意味を説明し、治療方法の意思決定に資する情報を提供し、臨床行動に示唆を与えることまでが期待されるようになった。背景に、がんや生活習慣病、慢性疾患の増加により、治療成績や延命だけでなく、病気と共に生活していく患者のQOLを考慮した医療も必要とされるようになったことがある。QOLを考慮する必要性と共に、患者の健康に関する情報をいかに科学的に妥当性と信頼性を保ち計測するかという目的で、健康関連の質問票を作成する手順評価のためのチェックリスト(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments: COSMIN)が開発された。COSIMINチェックリストの項目には、妥当性・信頼性の検証とともに、得られた結果の説明力の一項目としてMIDが取り上げられている。尺度を開発する時点ですでに、尺度を用いた調査の臨床的な意味を考える必要が示唆されている。MIDの算定方法は、大きく、統計学的分布によるdistribution-based methodと、外部の基準とQOLスコアの差の関係性によるanchor-based methodの2つがある。それぞれの算定方法には特徴がある。より臨床的意味を問うには、悪化と改善の方向性で異なる算定値が提示されるanchor-based methodであると言われている。MIDは臨床におけるQOL評価の活用に有用ではあるが、検討課題もあることに留意したい。特に、調査の状況設定については注意が必要である。また、統計学的観点からは、個人間での変化量が、そのまま群間での変化量としてよいのかという課題が提示されている。患者のQOL維持・向上を目指して、QOL/PRO評価結果を臨床にいかに使用するか、そのためにはどのような方略があるのかについて、さらなる検討と議論を深める必要がある。
著者
宮崎 貴久子 斎藤 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.54-65, 2003-01-31 (Released:2010-02-04)
参考文献数
30

死によって大切な人を失うことは大きな喪失体験である。世界保健機関によると, 緩和ケアの目標は, 患者とその家族にとってできる限り良好なクオリティ・オブ・ライフを実現させることであり, 患者の療養中も, 患者と死別後も家族への援助を継続する。本研究の目的は, 一般病棟の緩和ケアにおける, 患者の死が家族にどのように影響するのかを明らかにすることである。16名の家族の自由意志による研究参加協力を得て, 死別6か月以降にライフライン・インタビュー・メソッドによる面接調査を行った。描かれたライフラインの分岐点とイベントの分析結果より, 家族が死別体験をどのようにとらえて, 将来をどのように描いているのかその傾向を探った。家族の悲嘆反応は死別した家族との生前の関係, ジェンダー, 年齢などの多くの要因によって異なる。家族ケアの今後の課題と方向性を提示する。